Last Updated on 2026年11月1日 by contact@konnors.net
時計の針が16時を回る頃になると、それまで穏やかだったはずの家族が急にソワソワし始め、「実家に帰らなきゃ」「夕飯の支度をしなきゃ」とカバンに荷物を詰め始める……。
自分も夕飯の準備や家事で一番忙しい時間帯なのに、玄関へ向かう背中を必死に引き止め、「ここがあなたの家でしょう!」とつい強い口調で言ってしまう。
そして夜、眠りについた家族の顔を見ながら「また怒ってしまった」「もっと優しくできたはずなのに」と、ひとり自己嫌悪に陥ってはいませんか。
夕方になると認知症の方の落ち着きがなくなる「夕暮れ症候群」は、介護をするご家族の心と体を最もすり減らす現象のひとつです。
「できればお薬だけに頼り切るのではなく、日々の暮らしの中で穏やかに過ごせる工夫を知りたい」と願う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、私たち「リコケアコナーズ」が介護の現場やご家族との相談の中で実践してきた、夕方の照明や水分補給といった「家でできるちょっとした環境の微調整」と、お互いが傷つかないための「帰宅願望への声かけの工夫」をお伝えします。
今日から無理なく試せるヒントを、一緒に見つけていきましょう。
【この記事でわかること】
- 夕方(16時〜18時頃)になると認知症の方が落ち着かなくなる理由
- 部屋の「明るさ・影」や「午後の水分補給」など、家でできる環境微調整アプローチ
- 「帰りたい」「ご飯を作らなきゃ」と言われたときの具体的な声かけと対応のコツ
- ご家族が自分自身を責めずに心を守るための考え方と、専門機関へ相談する目安
発信者:リコケアコナーズ
菅原浩平(主任ケアマネジャー、介護福祉士)
菅原嘉奈(ケアマネジャー、介護福祉士、認知症リハビリテーション専門士)
なぜ夕方になると落ち着かなくなるのか?「夕暮れ症候群」が起きる背景

夕方16時〜18時頃になると、認知症の方が急に不安そうな表情を見せたり、ウロウロと歩き回ったり、「家に帰る」と外へ出ようとしたりする状態を、一般的に「夕暮れ症候群」と呼びます。
医療や介護の専門用語では、こうした帰宅願望や落ち着きのなさ(不穏)を「BPSD(認知症の行動・心理症状)」と呼びますが、決して「認知症が進んで性格が変わってしまった」わけでも、ご家族を困らせようとしているわけでもありません。
夕方の時間帯に複数の小さなストレスや体調の変化が重なり、ご本人の中で「ここはどこだろう?」「なんだか居心地が悪くて怖い」という強い不安が膨らんでしまうことが主な原因です。
まずは、ご本人の目線に立って「なぜ夕方に不安になるのか」を紐解いてみましょう。
1. 夕方の薄暗さと「影」が引き起こす視覚の不安
認知症のある方は、目から入った情報を脳で正しく処理する力(視空間認知機能)が少しずつ低下していくことがあります。
太陽が傾き始める夕方は、部屋の中に西日が差し込み、家具やカーテンの周りに「細長い影」ができやすい時間帯です。
健康な人であれば「ただの洋服掛けの影だ」と気にも留めませんが、認知症の方にとっては、薄暗い部屋の隅にできた影が「知らない人が立っている」「黒い穴が空いている」といった不気味な錯覚として見えてしまうことがあります。
この「影を怖がる・見間違える」という視覚的な違和感が、夕方の不安感を高め、「こんな落ち着かない場所から早く離れなければ(家に帰らなければ)」という行動を起こりやすくする要因のひとつになると考えられます。
2. 午後からの「水分不足」と夕方の疲れによる頭のぼんやり感
日々のケアの中で見落とされやすい要因のひとつが、午後の時間帯の「水分不足」と日中の活動による身体の疲れです。
高齢になると喉の渇きを感じにくくなるため、昼食後から夕方にかけてあまり水分をとらないまま過ごしてしまう方が少なくありません。
水分摂取が不足して脱水傾向になると、体調が優れなくなったり、意識がぼんやりして眠気が強くなったりする状態(覚醒水準の低下など)につながりやすいといわれています。
また、夕方のお昼寝から目が覚めた直後に「ここがどこかわからない!」と混乱してしまうケースでも、睡眠・覚醒リズムの乱れや寝起きのぼんやり感に加えて、水分不足による体調の変化などが重なっている可能性があります。
そこに朝から活動してきた「心身の疲れ」が重なることで、夕方になると自分のいる場所や状況がうまく把握しづらくなり、強い不安や落ち着きのなさとして表れやすくなることがあります。
3. 「ご飯を作らなきゃ」「帰らなきゃ」という長年染みついた習慣と役割
夕方になると「実家に帰る」「ご飯を作らなきゃ」「子どもが帰ってくる」と訴えるのは、ご本人がこれまで一生懸命に生きてきた証でもあります。
最近の記憶(ここが自分の家であること、すでに引退して家事を卒業したこと)は抜け落ちてしまっても、若い頃に毎日16時や17時になれば台所に立ち、家族のために必死に働いていた「身体に染みついた習慣や責任感」は深く残っています。
外が暗くなり始めると、「大変だ、早く帰って自分の役割を果たさなければ!」という焦りがスイッチのように入ってしまうのです。
4. 家族の慌ただしさが伝わる時間帯
夕方は、介護をするご家族にとっても夕飯の支度や洗濯物の取り込み、ニュース番組の音など、家の中が一番慌ただしくなる時間帯です。
認知症の方は、言葉の細かい意味は理解しづらくなっても、周囲の人の表情や空気感(焦り、忙しさ、ピリッとした雰囲気)にはとても敏感だといわれています。
ご家族が忙しそうに動き回る姿を見て、「自分だけが何もせずにここにいていいのだろうか」「なんだか落ち着かない場所だな」と感じ取り、ソワソワと荷物をまとめ始めるきっかけになることも少なくありません。
夕暮れ症候群の対策として家でできること|リコケアコナーズの「環境微調整アプローチ」

夕暮れ症候群には睡眠・覚醒リズムの変化などさまざまな要素が関係しているため、「これをすれば必ずピタッと収まる」という万能な解決策があるわけではありません。
しかし、夕暮れ時に重なりやすい「暗さ・体調・役割・刺激」といった背景要因を少しずつ和らげてあげることで、ご本人の不安が膨らみにくくなり、穏やかに過ごせる時間が増える可能性があります。
私たちリコケアコナーズでは、ご家族が無理なく取り入れられる工夫として、4つの「環境微調整アプローチ」をご提案しています。
| 家でできる環境微調整 | 実践するタイミング | 期待できる変化・ねらい |
| ① 照明とカーテンの調整 | 15時〜16時頃(薄暗くなる前) | 夕暮れの寂しさや、部屋の隅にできる「影」への恐怖・見間違いを防ぐ |
| ② コップ1杯の水分補給 | 14時〜15時頃(おやつの時間) | 夕方の「水分不足」による頭のぼんやり感(覚醒水準の低下)を防ぐ |
| ③ 簡単な手仕事・役割づくり | 16時〜17時頃(落ち着かなくなる前) | 「ご飯を作らなきゃ」「何かしなきゃ」という焦りを安心感や達成感に変える |
| ④ 音と視覚刺激の整理 | 夕方全般 | 情報処理の負担を減らし、脳の疲れと混乱を和らげる |
工夫1:日が傾く前(15時〜16時頃)に照明をつけ、部屋の「影」を減らす
夕暮れ症候群の対策として、まず試していただきたいのが「部屋が薄暗くなる前に、先回りして明るくすること」です。
部屋の隅や家具の影を怖がる・見間違えるリスクへの対策
一度部屋が薄暗くなり、窓の外の夕焼けに気づいてから電気をつけても、すでに「夕方=帰らなければいけない時間」というスイッチが入ってしまっていることがあります。
ポイントは、日が傾き始める少し前(秋〜冬なら15時〜15時半頃、春〜夏なら16時頃)に、早めにカーテンを閉めて部屋の照明をすべて明るくすることです。
また、リビングの照明だけでなく、廊下やトイレへ向かう道筋、部屋の四隅に暗い影ができていないかを確認してみてください。
影ができやすい場所には小さな間接照明(足元灯など)を置くか、壁に掛けている洋服や帽子(人の影に見えやすいもの)をクローゼットにしまうだけでも、視覚的な不安を減らす一助になります。
照明の色味と明るさの調整
夕方に温かみのあるオレンジ色の照明(電球色)を使うご家庭も多いですが、夕方になると不安が強くなる方の場合は、18時頃までは昼間と同じような「白い明るい光(昼白色)」で部屋全体を均一に照らしておき、夕食が終わって寝る準備に入る頃から少しずつ暖色系の落ち着いた明かりに切り替えると、日中の安心感と夜の眠りのメリハリがつきやすくなります。
工夫2:14時〜15時頃の「コップ1杯の水分補給」で頭の働きをサポートする
午後の水分不足による体調変化やぼんやり感を防ぐために、14時〜15時頃のまだ落ち着いている時間帯に、コップ1杯(150〜200ml程度)の水分をとる習慣を取り入れてみましょう。
ただ「水を飲んでね」と渡すよりも、ご家族も一緒に座って「お茶にしましょうか」と声をかけ、好きなお茶や少しのおやつを一緒に楽しむことは、午後の水分不足を防ぎ、ほっと一息ついて気分をリフレッシュするきっかけになります。
なお、夕方以降(就寝前)に水分をとりすぎると、夜間のトイレ(夜間頻尿)が増えて睡眠が中断されやすくなるため、日中から15時頃までの時間帯にこまめに補っておくのがポイントです。
工夫3:夕方の「かつての役割」を小さな手仕事に置き換える
「何かしなければ」「ご飯の支度をしなければ」とソワソワし始めたときは、「何もしなくていいから座っていて」と止めるよりも、ご本人が座ったまま安全にできる「小さな役割(手仕事)」をお願いしてみるのがおすすめです。
- 乾いたタオルや洗濯物を一緒にたたむ
- 料理に使うもやしのひげ根取りや、レタスをちぎる作業をお願いする
- 食卓のテーブル拭きをお願いする
その際、「洗濯物をたたむのと、テーブルを拭くの、どっちを手伝ってもらえる?」と2つの選択肢から選んでもらい、終わったあとに「助かったよ、ありがとう」と感謝を伝えることで、「自分はここで役に立っている」という安心感につながりやすくなります。
工夫4:音や視覚の刺激を整理し、安心できる空間をつくる
夕方のニュース番組では、事件や事故の速報、少し緊迫感のあるBGMが流れることが多くあります。
認知症の方は、テレビの中の出来事と現実の区別がつきにくくなり、ニュースの暗い話題や大きな音に引っ張られて不安や興奮が高まってしまうことがあります。
夕方になると落ち着かなくなる場合は、16時以降はテレビを消すか、昔懐かしい歌謡曲や穏やかな音楽、美しい風景の映像などに切り替えてみてください。
また、玄関の目につく場所にコートや外出用のカバン、靴が並んでいると、それを見た瞬間に「出かけなきゃ」という行動が誘発されやすくなります。
外出着やカバンは目に入らない場所にしまっておくのも、シンプルですが有効な環境づくりのひとつです。
「実家に帰る」と荷物をまとめ始めたときの帰宅願望への声かけ・対応

環境の工夫をしていても、「もう帰ります」「お世話になりました」と荷物をまとめ始めることはあります。
そんなとき、ご家族もご本人も傷つきにくい声かけと対応のヒントを見ていきましょう。
1. 「ここが家よ」と正論で引き止めると逆効果になりやすい理由
「ここがあなたの家でしょう!」「実家はもうないよ、お父さんも亡くなったでしょ」と事実(正論)を伝えて説得したくなるのは、ご家族として当然の反応です。
しかし、その瞬間の認知症の方の脳内では、「自分は今、よその家にいて、早く実家に帰らなければいけない」という現実が100%の真実として存在しています。
そのため、周囲から「ここがあなたの家だ」と強く否定されると、「この人たちは嘘をついて自分を閉じ込めようとしている!」という恐怖や怒りに変わってしまい、ますます興奮して外へ飛び出そうとする悪循環に陥りやすいのです。
2. 気持ちをそのまま受け止め、視線と話題をそっと切り替える声かけ例
帰宅願望が出たときの基本は、「帰りたい気持ちは否定せず、一度受け止めてから、別の行動へそっと誘う」ことです。
ご家庭で使いやすい具体的なフレーズをご紹介します。
「お茶を飲んでからにしよう」と一呼吸置く声かけ
声かけ例:
「そっか、お家に帰りたいんだね。準備してくれてありがとう。でも、せっかく今おいしいお茶(おやつ)を入れたところだから、1杯だけ飲んで一休みしてから出ようか」
まずは「帰りたいんだね」と肯定することで、ご本人は「自分の気持ちをわかってもらえた」と少し安心します。
そこから温かいお茶やお菓子を出してテーブルに座ってもらうと、お茶を飲んでいるうちに「帰らなければ」という強い衝動がふっと和らぎ、別の話題に切り替えやすくなります。
「今日はもう暗いから、明日一緒に帰ろうね」と安心を届ける声かけ
声かけ例:
「もう外が真っ暗で寒いから、今から出ると危ないよ。今夜はここに泊まって、明日の朝、明るくなったら私と一緒に帰ろうね。もう寝床も用意してあるから大丈夫よ」
「帰ってはいけない」ではなく、「今日は暗いから一晩だけ泊まって、明日帰ろう」と伝える方法です。
「実家の親が待っている」と心配している場合は、「さっき実家に電話して、『今日はうちに泊まるから大丈夫だよ』って伝えておいたから安心してね」と添えると、肩の荷が下りて納得されることもあります。
3. どうしても外に出たがるときは「数分だけ一緒に歩く」のも一つの方法
どんなに声をかけても玄関のドアを開けようとして譲らないときは、家の中で無理に引き止め続けるよりも、「じゃあ、そこまで一緒に送っていくね」と靴を履いて、家の周りを5分〜10分ほど一緒に歩く方が、結果的に早く落ち着くことがあります。
外の空気を吸って少し歩くことで、「外に出る」という目的が一度満たされます。家の周りをぐるっと一周して自宅の前に戻ってきたタイミングで、「あ、ちょうどいいところに私の家があるから、今日はもう遅いし、ここに寄ってご飯を食べていこうよ!」と声をかけると、「そうね、お邪魔しようかしら」とすんなり家に入ってくれるケースも多いのです。
(※ただし、ご家族に余裕があるときや、天気が良く安全な時間帯に限ります。無理は禁物です。)
4. 引き止め疲れを減らすための、玄関まわりのさりげない工夫
目を離した隙に一人で外に出てしまう心配がある場合は、以下のような工夫を取り入れておくと、ご家族が「常に玄関を見張っていなければならない」という緊張感から少し解放されます。
- ドアセンサーやチャイムの設置:
玄関のドアが開いたときにリビングで優しいメロディが鳴るセンサーを取り付ける(大きな警報音はご本人を驚かせてしまうため、来客用のような穏やかな音が適しています)。 - のれんやタペストリーの活用:
リビングから玄関のドアが直接見える間取りの場合、廊下の入り口に長めの「のれん」をかけて玄関を目隠しするだけでも、外へ意識が向く回数を減らせる可能性があります。 - 靴にGPS端末を入れておく:
万が一外に出てしまったときに備え、普段履く靴や持ち歩くカバンに小型のGPS端末を忍ばせておくと、早期発見につながりご家族の安心材料になります。
(自治体によっては、認知症高齢者向けのGPS貸出助成制度を設けている場合もあるため、地域包括支援センターや役所の窓口で確認してみてください。)
夕方だけでなく、日頃から強い「帰りたい」という訴えが続いてお困りの場合は、ご本人の心理背景や場面別の具体的な対応をまとめた以下の記事もあわせて参考にしてみてくださいね。
👉 あわせて読みたい:帰宅願望が強い高齢者の対応|家族が疲弊しないための声かけと工夫
夕方になるとイライラしてしまうご家族へ|自分自身を責めないために
ここまで環境づくりや声かけの工夫をお伝えしてきましたが、最後に私たちリコケアコナーズから、毎日介護に向き合っているご家族へどうしてもお伝えしたいことがあります。
それは、「うまく対応できずに怒ってしまっても、どうかご自身を責めないでください」ということです。
知識として「否定してはいけない」「優しく受け止めよう」とわかっていても、自分自身が疲れていて、夕飯の支度もたまっている夕方に、毎日同じやり取りを繰り返していれば、感情が爆発してしまうのは人間として当たり前の反応です。
優しくできないのは、あなたの愛情が足りないからではなく、あなたがそれだけ毎日一生懸命に頑張りすぎて、心と体のエネルギーが限界に近づいているサインなのです。
もし強い口調で怒ってしまったときは、「今日も一日、事故なく安全に過ごせただけで100点満点」と自分に言い聞かせてあげてください。
ご本人は、叱られたことの内容は忘れても、感情の余韻だけは残ることがあります。
少し気持ちが落ち着いたら、寝る前に「さっきは大きな声を出してごめんね。いつもありがとうね」と温かい飲み物を渡したり、背中をさすったりするだけで十分です。完璧な対応を目指す必要はありません。
「もう限界かもしれない」「優しくできない自分が嫌になる」と感じたときは、どうか一人で抱え込まないでください。
ご家族自身の心を守り、介護うつを防ぐための考え方については以下の記事で詳しくお伝えしています。
👉 あわせて読みたい:介護ストレスで心が壊れる前に読む特効薬。介護うつを防ぐカウンセリングの力
ご家族だけで抱え込まないで|専門機関へ相談すべきタイミングと目安

家でできる環境の工夫や声かけを試してみても改善が見られない場合や、ご家族の負担が大きい場合は、決して家庭の中だけで抱え込まず、医療や介護の専門職を頼ってください。
以下のような様子が見られるときは、早めに主治医や担当のケアマネジャー、お近くの地域包括支援センターへ相談する目安となります。
1. 急に症状が強くなった場合は「身体の不調」が隠れていることも(主治医への相談)
「ここ数日で急に夕方の混乱が激しくなった」「今までなかったのに、急に幻覚のようなことを言って怖がるようになった」という場合は、認知症の進行ではなく、「せん妄(身体の不調や薬の影響などで一時的に脳が混乱している状態)」や、別の体調不良が隠れている可能性があります。
認知症の方は、便秘でお腹が苦しい、膀胱炎で違和感がある、どこかが痛む、微熱があるといった身体の不快感をうまく言葉で表現できず、それが夕方の激しい落ち着きのなさ(不穏)として表れることがよくあります。
急激な変化を感じたときは、かかりつけ医や認知症の専門医を受診し、体調面や現在飲んでいるお薬の調整について相談してみてください。
2. 夕方の時間帯にデイサービスやヘルパーの手を借りる選択肢(ケアマネジャー・地域包括支援センターへの相談)
「毎日16時が来るのが怖い」「引き止めるのに疲れ果てて、自分が眠れなくなっている」という場合は、介護保険サービスを調整するタイミングです。
担当のケアマネジャー(まだ介護保険を利用していない場合は、お住まいの地域の「地域包括支援センター」)に、夕方の困りごとを具体的に伝えてみましょう。
- デイサービス(通所介護)の利用時間の延長:
夕食まで食べてから18時〜19時頃に帰宅できるデイサービスや、宿泊も組み合わせられる「小規模多機能型居宅介護」などのサービスを検討する。 - 夕方の訪問介護(ホームヘルパー)の活用:
一番落ち着かなくなる時間帯にヘルパーに来てもらい、話し相手や見守り、夕食の準備を分担してもらう。 - ショートステイ(短期入所)の定期利用:
ご家族が夕方の緊張から解放され、ゆっくり羽を伸ばせる日を月に数日つくる。
第三者の目や地域のサポートが入ることで、ご本人が外の世界で適度な刺激を受けて夕方に落ち着きやすくなり、ご家族の心にも大切な「余白」が生まれます。
短い診察時間の中で、夕方の様子や困りごとを先生にうまく伝える自信がない……という方は、受診前にサッと準備できる「観察メモ」の作り方をまとめたこちらの記事をぜひご活用ください。
👉 あわせて読みたい:認知症の病院での伝え方とメモ作成法|3分で医師に伝わる観察記録
夕暮れ症候群の対策に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 昼寝をさせると夕方に落ち着くという話と、夜眠れなくなるという話、どちらが本当ですか?
A. 昼寝の「時間帯」と「長さ」がポイントになります。13時〜14時頃の早い時間帯に、30分程度の短い昼寝をとることは、脳の疲れをリセットして夕方の混乱(夕暮れ症候群)を和らげるうえでとても効果的です。
一方で、15時以降に1時間以上ぐっすり眠ってしまうと、起きたときに外が薄暗くなっているため「今が朝なのか夜なのかわからない」と混乱しやすくなり、夜の不眠にもつながりやすくなります。
お昼寝は14時頃までに30分程度を目安にし、15時頃には照明を明るくして声かけとお茶で自然に目を覚ましてもらうのがおすすめです。
Q2. 「亡くなった親が待っているから帰る」と言われたときは、どう答えるのがいいですか?
A. 「もう亡くなったでしょ」と事実を伝えると、ご本人は「たった今、親が亡くなった」という強い悲しみとショックを毎回味わうことになり、パニックが強まってしまいます。
「お母さん、心配だよね。でもさっき連絡があって、『今日は用事があるから、そっちに泊めてもらいなさい』って言っていたよ」「お母さんなら元気にしてるから安心だよ」と、ご本人の世界観に寄り添いながら安心できる言葉を返してあげると、気持ちが落ち着きやすくなります。
Q3. 夕暮れ症候群は、ずっと一生続くのでしょうか?
A. 夕暮れ症候群がずっと同じ強さで一生続くわけではありません。
生活リズムや室内環境(照明・水分など)が整うことで自然と落ち着いていくケースもありますし、時期によって波があります。
また、医療面でのサポートや介護サービスの導入によって、ご家族が対応に追われる時間を大幅に減らすことも可能です。
「このつらい状態が永遠に続くわけではない」と知っておくだけでも、少し気持ちが軽くなるはずです。
Q4. 夕方になると私(家族)の顔を見ても「どなたですか?」と他人行儀になるのはなぜですか?
A. ご家族としてはとてもショックで寂しい思いをされますよね。
これは、夕方の疲れや水分不足、部屋の薄暗さが重なることで、一時的に記憶や人物を認識する力が低下するために起こりやすい現象です。
ご本人が「ここはよその家で、目の前にいるのは親切なよその人」と思っているときは、無理に「娘の〇〇よ!わからないの?」と詰め寄らず、あえて「お世話になっております、今日はゆっくりしていってくださいね」と親切な宿の女将さんやご近所さんのように振る舞う方が、お互い穏やかにやり過ごせることがあります。
翌朝、頭がすっきりするとまた家族として認識できるケースも多いので、夕方の「一時的な脳の疲れ」として受け止めてみてくださいね。
まとめ:小さな環境の工夫から、今夜の穏やかな時間をつくっていくために
夕方になると繰り返される「帰りたい」「ご飯を作らなきゃ」という言葉の裏には、認知症のご本人が抱える「薄暗さや影への不安」「水分不足や疲れによる頭のぼんやり感」「かつての役割を果たそうとする責任感」が隠れています。
- 15時〜16時頃に早めにカーテンを閉め、照明をつけて部屋の「影」をなくす
- 14時〜15時頃にコップ1杯の水分をとり、夕方の脱水と頭の混乱を防ぐ
- 「ご飯を作らなきゃ」という気持ちには、安全で簡単な手仕事をお願いして「ありがとう」と伝える
- 帰宅願望は正論で否定せず、「お茶を飲んでからにしよう」「明日の朝一緒に帰ろう」と受け止める
すべてを一度に完璧にやる必要はありません。
「今日は15時に電気を全部つけてみよう」「今日はおやつの時間に温かいお茶を一緒に飲んでみよう」と、ご家庭で無理なく試せそうなことから一つだけ取り入れてみてください。
その小さな環境の微調整が、ご本人の不安を和らげ、ご家族がホッと一息つける夕方を増やす一助になることを願っています。
毎日の介護の中で、「頭ではわかっていても、どうしてもイライラしてしまう」「うちの親の場合はどう声をかけたらいいのかわからない」と一人で悩んでしまう夜もあるかと思います。
そんなときは、私たちリコケアコナーズの公式LINEでも、ご家族の心が少し軽くなるような在宅介護のヒントや情報をお届けしています。
介護のモヤモヤを一人で抱え込みそうなときの「心の拠りどころ」として、よろしければ気軽につながってみてくださいね。

【出典・参考情報】
- 厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜」
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」
- 日本神経学会 監修「認知症疾患診療ガイドライン2017」(医学書院)
- 厚生労働省「『健康のため水を飲もう』推進運動」および高齢者の脱水予防に関する普及啓発資料
発信者:リコケアコナーズ
菅原浩平(主任ケアマネジャー、介護福祉士)
菅原嘉奈(ケアマネジャー、介護福祉士、認知症リハビリテーション専門士)