Last Updated on 2026年10月3日 by contact@konnors.net
認知症の診察で医師へ日頃の困りごとを的確に伝える最大の鍵は、限られた診察時間の中で感情的な訴えをするのではなく、「生活リズム・水分・排泄・困りごとが起きた時間帯」を客観的な事実(エピソード)として1枚のメモにまとめて事前に手渡すことです。
診察室に入ると親がシャンとしてしまい、「先生の前では普段の様子が全く伝わらない」と悩むご家族は少なくありません。
事前の準備と伝え方のコツを押さえることで、医師との円滑な情報共有につながりやすくなります。
この記事でわかること
- 診察室で親が「しっかりしてしまう」背景と、医師へ困りごとを共有する工夫
- 限られた診察時間(3〜5分)でも要点が伝わる「受診メモ(観察記録)」の作成フォーマット
- 初診時の問診票の書き方や受診を嫌がる場合の声かけ、ケアマネジャー同席の活用手順
- 医療機関や専門職へ相談する前に確認しておきたい家庭内の基本ケア
発信者:リコケアコナーズ
- 菅原 浩平(主任ケアマネジャー、介護福祉士)
- 菅原 嘉奈(ケアマネジャー、介護福祉士、認知症リハビリテーション専門士)
本記事は、ケアマネジャー・介護福祉士としての経験をもとに、家庭でできる生活環境の見直しを解説しています。
医学的な診断・治療・薬の調整については、必ず主治医・薬剤師へご相談ください。
※ご家庭での様子をどう整理して相談すべきか不安な方は、記事の後半で紹介している「家庭でできる認知症ケアの見直しチェックリスト」もあわせてご活用ください。

診察室で「シャンとしてしまう」のはなぜ?医師に困りごとが伝わりにくい3つの理由

診察室で親がしっかり受け答えしてしまうのはごく自然な適応反応です。
診察時間の短さや本人の前で話しにくい心理を踏まえ、事前の情報伝達手段を用意することが解決の第一歩となります。
家では物忘れが目立ったり、同じことを何度も繰り返したり、怒りっぽい場面が増えたりしているのに、いざ病院の診察室に入ると背筋を伸ばして医師と笑顔で受け答えしてしまう。
そうした様子に戸惑いを感じるご家族は非常に多くいらっしゃいます。
医師に家庭の様子が伝わりにくくなる背景には、主に3つの理由があります。
1. 外の緊張感や刺激によって一時的に集中力が高まるため
普段と異なる「病院の診察室」という改まった場や、白衣を着た医師の前では、適度な緊張感や外因的な刺激によって集中力が高まり、一時的にしっかりとした受け答えができる場面があります。
これは取り繕い反応(ファサード現象)とも呼ばれ、本人が無意識に「しっかりした自分を見せたい」「周囲に迷惑をかけたくない」と自尊心を保とうとする心の表れでもあります。
2. 一般的な診察時間(3〜5分)では口頭説明に限界があるため
外来診療では、1人あたりに割ける診察時間が3〜5分程度と限られているケースが一般的です。診察室に入ってから口頭で「最近こんなことがあって……あんなこともあって……」と時系列を追って話そうとすると、要点がまとまらないまま診察時間が終了してしまい、核心となる困りごとが医師に届かないことがあります。
3. 本人の前で困りごとを直接話すと自尊心を傷つけてしまうため
「お母さん、家ではご飯を食べたことも忘れるじゃない」「最近すぐ怒鳴るんです」といった言葉を本人の目の前で医師に伝えてしまうと、本人は深く傷つき、恥ずかしさや怒りから関係性が悪化してしまうリスクがあります。
本人の気持ちに配慮するあまり、ご家族が言葉を濁してしまい、結果として現状が医師に正確に伝わらない状況が生まれます。
3分で的確に伝わる!医師への「受診メモ(観察フォーマット)」の書き方

医師に渡すメモは、感情論ではなく「客観的な事実・頻度・生活リズム」に絞ってまとめることで、短時間でも医師が生活状況を把握しやすくなります。
長々と書き連ねる必要もはありません。
伝えるべきことを簡潔にまとめ、わかりやすく伝えることを目指しましょう。
医師が診察や処方を検討するうえで重視するのは、「家族がどれだけ大変か」という主観的な感情以上に、「どのような生活状況の中で、いつ、どんな客観的事実が起きているか」という情報です。
病状や薬効についてご家族側で判断するのではなく、日々の観察記録を医師への「状況整理ツール」として機能させることがポイントです。
関連記事:夕方に「家に帰る」と落ち着かなくなるのはなぜ?帰宅願望の原因と家庭でできる安心の関わり方
ケアマネジャー・専門士が推奨する「4つの生活観察ポイント」
リコケアコナーズでは、認知症のリハビリテーションや生活環境調整の視点から、以下の4項目を整理してメモに記載することをおすすめしています。
| 観察項目 | 観察の着眼点 | 具体的な記入例 |
| 生活リズム | 起床・就寝時刻、日中の昼寝の有無 | 「朝7時起床、夜22時就寝だが、週に2〜3回ほど深夜2時に起き出してタンスを開ける」 |
| 食事・水分量 | 1日の水分摂取目安、食事の摂取状況 | 「食事は3食完食しているが、水分はお茶2杯程度(約400ml/日)と少なめ」 |
| 排泄リズム | トイレの頻度、失敗しやすい時間帯 | 「日中は自立しているが、夕方17時前後にトイレの場所が分からなくなる傾向がある」 |
| 変化が起きる時間帯 | 不穏や混乱が起こりやすいタイミング | 「薄暗くなる16時〜18時頃になると『家に帰る』と言って外に出ようとする」 |
体内の水分不足や便秘、睡眠リズムの乱れは、認知機能の低下や夕方の不穏(夕暮れ症候群)の一因となることがあります。
これらの生活基本データをメモに添えることで、医師が総合的に状態を把握しやすくなります。
医師に手渡す受診メモのテンプレート例
A4用紙1枚、あるいは手のひらサイズのメモ用紙に箇条書きでまとめます。
氏名:〇〇 〇〇
1. 本日の受診で相談したいこと
・夕方(16時頃)になると「財布がない」「盗まれた」と強く興奮する場面が増えており、対応に困っています。
2. 家庭での生活状況(直近2週間の様子)
・生活リズム:
21時就寝、深夜1時〜3時頃に目が冴えてリビングを歩き回る日がある(週2回程度)。
・水分・食事:
食事は普通に摂取。水分は1日500ml程度とやや少なめ。
・物忘れの具体例:
同じ話を10分おきに繰り返す、通帳の保管場所を忘れて何度も探し回る。
3. 現在の服薬状況
・内科で処方されている血圧の薬(お薬手帳を同封しています)。
飲み忘れが週に数回あります。
※本人の前では話しにくいため、メモにてお伝えさせていただきました。
よろしくお願いいたします。
初診・問診票の書き方と当日の立ち回り手順
問診票の余白や別紙メモを活用し、診察室に入る前の受付段階で医療スタッフに情報を共有しておくことで、本人の自尊心を守りながらスムーズに診察を進めることができます。
問診票の書き方のコツ
初診時に記入する問診票は、枠が小さく詳細を書ききれないことがほとんどです。
- 受診のきっかけ欄:
「物忘れが目立つため」だけでなく、「いつから」「何がきっかけで」を具体的に記載します(例:「3か月前頃から料理の味付けが極端に濃くなり、直近の出来事を忘れることが増えたため」)。 - 余白や別紙の活用:
「本人の前では話しにくいため、別紙メモを添付します」と一言添え、先ほど作成した受診メモをホチキス留めして受付に提出します。
メモを渡すタイミングと診察室での配慮
診察室に入ってから本人の目の前で医師にメモを差し出すと、「何をこそこそ書いているんだ」と本人が不信感を抱く原因になりかねません。
- 受付窓口で提出する:
保険証や問診票を出す際、「医師に事前に目を通していただきたいメモです」と看護師や受付スタッフに手渡します。 - 本人が中待合室にいる間に手渡す:
看護師による事前のバイタル測定や問診のタイミングで渡すのも有効です。 - 診察室では医師の質問を本人が答えるのを見守る:
医師が本人に質問している間は、家族は口を挟まず本人のペースに任せます。
医師は「本人がどう受け答えするか」そのものを観察しています。
関連記事:服の前後を間違えるのは認知症のサイン?大人の「着衣失行」に気づいたときの観察ポイント
「病院に行きたがらない」受診拒否への対応とケアマネジャーの同席

受診拒否に対しては「認知症の検査」と言わず健康チェックを名目に受診を促し、家族だけで抱え込まずケアマネジャーに相談して受診同席を依頼することが推奨されます。
受診を拒否する親への声かけ(NG・OK例)
「物忘れがひどいから頭の病院に行こう」という誘い方は、本人のプライドを傷つけ、強い拒否反応を引き起こしやすくなります。
| 声かけのタイプ | NGな声かけ例 | OKな声かけ例(推奨) |
| 受診の理由 | 「最近物忘れがひどいから、物忘れ外来で検査してもらおう」 | 「最近疲れやすいって言っていたから、かかりつけの先生に血圧や健康診断をしてもらおう」 |
| 家族の立ち位置 | 「お母さんがおかしいから病院に行くんだよ」 | 「私が先生から食事や健康管理のアドバイスを聞きたいから、一緒についてきてくれない?」 |
| 専門医への誘導 | 「認知症の専門病院を予約したから行くわよ」 | 「先生が『一度頭の血流や血管の検査も念のためにしておこう』って言ってくれたから受けてみよう」 |
ケアマネジャーに相談・同席を依頼するメリット
すでに介護保険サービスを利用している場合は、担当のケアマネジャーへ事前に相談しておくことが非常に心強い助けになります。
- 生活状況を第三者として客観的に伝えてもらえる:
家族が話すと角が立つ内容でも、介護の専門職であるケアマネジャーが「デイサービスでのご様子」や「ご自宅での日中の様子」を中立的な視点で医師に報告できます。 - 医師からの指示を介護保険サービスへ直結できる:
診察での医師の見立てや助言を、その後のケアプラン(訪問看護の導入、デイサービスの利用回数調整など)へスムーズに反映できます。
薬の判断は医師へ|家庭でまず見直したい基本ケア

薬の調整や処方の判断はすべて主治医・薬剤師に委ねる領域です。
ご家族ができる役割は、生活リズムや水分摂取といった基本ケアを整え、日々の変化を観察・記録することにあります。
ご家族が「早く薬で症状を落ち着かせたい」と焦る気持ちは自然なものですが、薬の効果や副作用には個人差があり、自己判断で服薬量を調整したり中止したりすることは非常に危険です。
まずは家庭内で以下の基本ケアを見直すことが、日々の落ち着きにつながる一助となる場合があります。
1. 水分摂取量と脱水の確認
高齢者は口渇感(喉の渇き)を感じにくく、知らず知らずのうちに軽度の脱水状態に陥っていることがあります。
脱水は意識の混濁や不穏、集中力低下を引き起こす一因となることがあるため、1日あたり1,000〜1,500mlを目安に、こまめな水分補給(お茶、白湯、スープなど)を促してみましょう。
2. 生活リズムと照明環境の調整
朝はカーテンを開けて日光を浴び、体内時計をリセットすることが夜間の良質な睡眠につながります。
また、夕方になると部屋の薄暗さから不安感が増すことがあるため、早めの時間帯から室内を明るく保つ工夫も環境づくりの一環として有効です。
3. 受診・相談を急ぐべきサイン(相談の目安)
以下のような急激な変化が見られる場合は、認知症の進行だけでなく身体疾患(脱水、感染症、脳血管障害など)が隠れている可能性があるため、早めの受診やケアマネジャーへの相談を検討してください。
- 数日〜数週間の間に、急激に意識がぼんやりしたり会話が噛み合わなくなったりした(せん妄の疑い)
- 歩行時のふらつきや転倒が急に増えた
- 食事や水分の摂取量が著しく落ち、呼びかけへの反応が鈍い
認知症の受診と伝え方に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 本人が同席している前で、物忘れや失敗を医師に話してもいいですか?
A. できる限り本人の前では直接的な失敗談を話さない配慮をおすすめします。
本人の自尊心を傷つけ、医師や家族に対する不信感を招く原因になりやすいためです。
困りごとの詳細は事前の「受診メモ」に記載して医師に手渡し、診察室では「家族も少し心配な点があってメモにまとめました」と一言添える程度にとどめるのが望ましい対応です。
Q2. 受診メモはパソコンで作成すべきですか?手書きでも問題ありませんか?
A. 手書きでもパソコン作成でも、どちらでも全く問題ありません。
大切なのは体裁ではなく、医師が数分で読み取れる「簡潔さ」と「客観的事実」です。
殴り書きにならないよう読みやすい文字で箇条書きにし、A4用紙1枚やメモ帳1〜2ページ程度に収めることを意識してください。
Q3. 最初はかかりつけの内科と、もの忘れ外来(専門医)のどちらを受診すべきですか?
A. 普段から持病や健康状態を把握してくれている「かかりつけ医(内科など)」がいる場合は、まずはかかりつけ医への相談をおすすめします。
かかりつけ医から専門の医療機関(もの忘れ外来、老年精神科、脳神経内科など)へ紹介状を書いてもらうことで、これまでの病歴や服薬状況がスムーズに引き継がれ、専門医での検査も円滑に進みやすくなります。
Q4. まだ介護認定を受けておらず、ケアマネジャーがいない場合はどこに相談すればよいですか?
A. お住まいの市区町村に設置されている「地域包括支援センター」へご相談ください。
高齢者の医療・介護・福祉全般に関する総合相談窓口であり、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が在籍しています。
受診に関する相談や、要介護認定の申請手続きについて無料で支援を受けることができます。
公的根拠および参考情報
- 厚生労働省:認知症施策の推進(総合戦略・基本法関連情報)
- 国立長寿医療研究センター:認知症情報・受診の手引き
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会:受診と診断の手引き
- お住まいの自治体:地域包括支援センター(高齢者総合相談窓口)
主治医やケアマネジャーに相談する前に、家庭の状況を整理してみませんか?
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※本チェックリストは薬の自己判断による変更・中止を勧めるものではありません。気になる症状がある場合は、必ずかかりつけ医・薬剤師・担当ケアマネジャーへご相談ください。
執筆・監修:リコケアコナーズ
- 菅原 浩平(主任ケアマネジャー、介護福祉士)
- 菅原 嘉奈(ケアマネジャー、介護福祉士、認知症リハビリテーション専門士)