Last Updated on 2026年10月16日 by contact@konnors.net
認知症の方がお風呂を嫌がる理由は、単なる「わがまま」ではなく、脱衣所の温度差やシャワーの水圧・音への恐怖、羞恥心、入浴手順がわからなくなる不安など、ご本人の知覚や認知機能の変化が重なっているケースが多く見られます。
無理に入れようとせず、「今日はお風呂に入らなくても大丈夫」という安心感をつくりながら、足湯や温タオルでの清拭(せいしき)など段階的なアプローチへ切り替えることが、ご本人とご家族双方の負担を和らげる一助になります。
【この記事でわかること】
- 認知症の方がお風呂を怖がる・服を脱ぎたがらない背景にある「知覚と心理の理由」
- 入浴を勧める前に見直したい「生活リズム・水分・排泄・室温・照明」の基本ケア
- 拒否感が和らぐ可能性のある場面別の具体的な「声かけ例」と足湯・清拭の工夫
- デイサービスで入らない時の連携方法と、主治医・ケアマネジャーへ相談する目安
発信者:リコケアコナーズ
- 菅原 浩平(主任ケアマネジャー、介護福祉士)
- 菅原 嘉奈(ケアマネジャー、介護福祉士、認知症リハビリテーション専門士)
本記事は、ケアマネジャー・介護福祉士としての経験をもとに、家庭でできる生活環境の見直しを解説しています。
医学的な診断・治療・薬の調整については、必ず主治医・薬剤師へご相談ください。
※今の対応で合っているか不安な方は、記事後半でご案内する状況整理ツール『家庭でできる認知症ケアの見直しチェックリスト』もご活用ください。

認知症の方がお風呂を嫌がる理由|「わがまま」ではなく知覚と認知の変化

入浴を嫌がる背景には、寒暖差や音への恐怖、羞恥心、体調の変化など、ご本人なりの切実な理由が存在します。
まずは「なぜ嫌なのか」をご本人の知覚や視点から紐解くことが、穏やかなケアへの第一歩となります。
何日もお風呂に入ってもらえず、清潔を保ってほしい一心で声をかけても怒り出してしまうと、ご家族としては心身ともに限界を感じてしまいますよね。
しかし、リコケアコナーズが多くのご相談や介護現場で向き合ってきた経験からも、入浴拒否はご家族を困らせようとする「わがまま」ではなく、ご本人が感じている「怖さ」や「不快感」から自分の身を守ろうとする防衛反応であることが多いです。
具体的には、以下のような5つの要因が複雑に絡み合っていることが考えられます。
1. 脱衣所と浴室の「温度差」や照明による不快感・恐怖
高齢になると体温調節機能が低下しやすいため、暖かいリビングから寒い脱衣所へ移動し、そこで服を脱ぐこと自体が強い苦痛になることがあります。
また、浴室の照明が薄暗かったり、湯気で視界が悪くなったり、鏡に映る自分の姿を「知らない人がいる」と誤認したりすることで、お風呂場そのものが「得体の知れない怖い場所」と感じられる一因になることがあります。
2. シャワーの「水圧・音・しぶき」がもたらす強い刺激
認知症に伴う感覚や情報処理の変化により、私たちには心地よいシャワーが、ご本人にはまったく異なる刺激として伝わっている場合があります。
- 音への恐怖:
タイル張りの浴室に響くシャワーの音が、威圧的な騒音のように聞こえる - 水圧としぶき:
頭や顔に突然お湯がかかることで「息ができない」「攻撃されている」ようなパニックに近い感覚を抱く
このように、過去の入浴中に一度でも「冷たい」「熱い」「苦しい」といった嫌な記憶が残ると、次から「お風呂」という言葉を聞くだけで拒否反応が出やすくなります。
3. 「服を脱ぎたがらない」背景にある羞恥心と防衛反応
たとえ実の子どもや配偶者であっても、人前で裸になることへの「羞恥心(恥ずかしさ)」は最後まで残る大切な感情です。
さらに、これから何をするのか状況が十分に理解できないまま急に服のボタンに手をかけられたり、ズボンを下ろされそうになったりすると、強い恐怖や屈辱感を覚えて攻撃的な言動が増える一因になります。
4. 入浴の「手順や見通し」がわからなくなる不安
お風呂に入るという行為は、実は非常に多くの工程で成り立っています。
- 着替えやタオルを準備する
- 脱衣所で服を脱ぐ
- 浴室へ移動し、お湯の温度を確かめる
- 髪や体を洗い、湯船に浸かる
- 体を拭いて、新しい服を着る
認知症によって段取りを立てる力(実行機能)が変化すると、この一連の流れが大きなプレッシャーとなり、「どうやって入ればいいかわからないけれど、できない自分を知られたくない」という思いから「もう入ったからいい」「今日は入らない」と断るケースが見られます。
5. 体調不良・疲労・水分不足・排泄の気がかり
身体的なコンディションも大きく影響します。全身浴は想像以上に体力を消耗するため、夕方以降の疲れが出やすい時間帯や、日中の水分摂取量が少なく軽い脱水傾向にある時は、体がだるくて動く気になれないことがあります。
また、便秘によるお腹の張りや尿意、関節の痛み、皮膚の乾燥・湿疹によるヒリヒリ感などが隠れている可能性も考慮する必要があります。
ご本人の言動から推測される背景理由と観察ポイント
| よく見られる言動・様子 | ご本人の知覚・心理の背景(推測される理由) | 家庭での観察・確認ポイント |
| 「さっき入ったからいい」 | 入浴の手順が負担で面倒に感じている、または記憶のズレがある | 声をかける時間帯に疲れが出ていないか、工程が多すぎないか |
| 服を脱ぐ段階で怒り出す | 脱衣所が寒い、裸を見られる羞恥心、急に服を脱がされる恐怖 | 脱衣所の室温は適温か、本人のペースを待たずに手を貸していないか |
| 浴室の入り口で立ち止まる | 照明が暗い、床が滑りそうで怖い、鏡の映り込みに驚いている | 浴室の明るさ、足元の滑り止めマットの有無、鏡の位置 |
| 洗髪やシャワーを激しく嫌がる | シャワーの音や水圧、顔に水がかかることが怖い・苦しい | シャワーを頭から直接かけていないか、お湯の温度が熱すぎないか |
| 「具合が悪い」「やりたくない」 | 水分不足による倦怠感、排泄の不安、関節痛や皮膚トラブル | 日中の水分摂取量、最終排便日、皮膚の赤みや関節の痛みの有無 |
入浴を勧める前に確認したい「基本ケアと生活環境」の見直し

声かけの工夫を試す前に、まずは生活リズム・水分補給・排泄・室温・照明といった基本的な環境を整えることが大切です。
事前の環境調整を行うことで、ご本人が感じる不快感や警戒心が和らぐ可能性があります。
入浴拒否への対策というと「どうやって説得するか」に意識が向きがちですが、リコケアコナーズでは「お風呂に誘う前のコンディションと環境づくり」を重視しています。
以下の4つの基本ケアを事前に整えてみましょう。
1. 入浴前の「水分補給」と「排泄」の確認
水分が不足していると、なんとなく体が重だるく、動く意欲が低下しやすくなります。
お風呂に誘う30分〜1時間ほど前に、お茶や白湯などお好きな飲み物をコップ1杯程度とってもらいましょう。
また、「お風呂場で失敗したらどうしよう」という排泄への不安から入浴を避けている方もいらっしゃいます。
まずはトイレへお誘いし、排泄を済ませてすっきりした状態をつくることが環境づくりの一助になります。
2. 脱衣所と浴室の「温度差・照明・視覚情報」を整える
服を脱いでも寒さを感じないよう、入浴の15〜20分前には脱衣所を暖房器具で暖め、浴室もシャワーでお湯を張るなどして蒸気で暖めておきます(リビングとの温度差を少なくすることがヒートショック予防の観点からも重要です)。
また、浴室の照明はできるだけ明るくし、鏡に映る姿に驚く様子がある場合は、鏡にタオルや曇り止めシートをかけて映り込みを防ぐ工夫も選択肢となります。
3. 入浴の時間帯と生活リズムの見直し
「お風呂は夜寝る前に入るもの」という固定観念を手放してみるのも一つの方法です。夕方から夜にかけては、心身の疲労から不安や焦燥感が強まりやすい傾向(いわゆる夕暮れ症候群など)が見られる場合があります。
ご本人の表情が穏やかで、体力にもゆとりがある「午前中」や「昼食後しばらく経った暖かい時間帯(13時〜15時頃)」にお誘いすると、落ち着いて受け入れられる場面が増えることがあります。
4. 痛みや皮膚の状態・体調の事前チェック
関節を動かした時に顔をしかめていないか、乾燥や湿疹でお湯がしみる箇所がないかを普段の着替えの際などに確認しておきます。
少しでも発熱やだるそうな様子がある日は無理をせず、早い段階で「今日はお休みして、温かいタオルで拭くだけにしよう」と方針を切り替えることが大切です。
【場面別】認知症の方の入浴拒否が和らぐ可能性のある「声かけ」と誘導の工夫

正面から「お風呂に入りましょう」と説得するのではなく、ご本人の自尊心や安心感を守りながら、自然な流れで浴室へ向かえる声かけを選ぶことが大切です。
基本の環境が整ったら、次は声かけと誘導の工夫です。
「お風呂」という単語自体にマイナスのイメージが結びついている場合、正面から入浴を促すと警戒心が強まってしまいます。
NGな声かけとOKな声かけの比較一覧
| 場面 | 避けたい声かけ(NG例) | 落ち着く場面が増えやすい声かけ(OK例) | ポイント・理由 |
| お風呂へ誘う時 | 「もう3日も入ってないから臭いますよ」「お風呂に入らないとダメでしょう」 | 「お湯がちょうどいい温度に沸いていますよ」「少し足だけ温めてみませんか?」 | 事実の指摘や叱責は自尊心を傷つけます。「心地よさ」や「小さな提案」から始めます。 |
| 「もう入った」と言われた時 | 「入ってないですよ、昨日も断ったじゃないですか」 | 「そうでしたね、さっぱりしましたね。今日は新しい肌着に着替えて気分転換しませんか?」 | 記憶の否定は不安と怒りを招きます。一度受け止めた上で「着替え」など別の目的を提案します。 |
| 服を脱ぎたがらない時 | (無言で服に手をかけながら)「ほら、早く脱いでください」 | 「汗をかいたから、温かいタオルで背中だけ拭きませんか?上着だけ少し緩めますね」 | 予告なしに服を脱がせるのは恐怖につながります。次の動作を一つずつ伝えて同意を得ます。 |
| 浴室を怖がる時 | 「何も怖いものなんてないから、早く入って」 | 「私が先にお湯加減を見ますね。手すりにつかまって、ゆっくり一歩ずつ行きましょう」 | 本人にとっては本当に怖い状況です。家族が先に安全を示し、安心感をつくります。 |
場面別の具体的なアプローチステップ
ステップ1:「お風呂」という言葉を使わず、別のきっかけで移動する
リビングから直接お風呂へ誘うのが難しい場合は、「トイレに行った帰りの動線」を活用するのが現場でもよく使われる工夫です。
トイレを済ませて手を洗うタイミングで、そのまま洗面所(脱衣所)へ誘導し、「せっかくですから、温かいタオルで顔と首元を拭いてさっぱりしませんか?」「新しい下着を用意したので、ここでお着替えしましょうか」と声をかけると、自然に脱衣所へ足を運びやすくなります。
ステップ2:「服を脱ぎたがらない」時は羞恥心と保温に配慮する
脱衣所に入っても服を脱ぎたがらない時は、一気に全部脱いでもらおうとせず、「大きめのバスタオルやケープで肩から体を覆い、肌が見えない状態」をつくってから1枚ずつ着替えを促してみてください。
また、ご家族がすべて手出しをするのではなく、「一番上のボタンだけ外してもらえますか?」とご本人ができる部分を頼むことで、自分でコントロールできている安心感につながりやすくなります。
あわせて読みたい:普段の「着替え」でもお困りのご家族へ
お風呂の場面だけでなく、日常的に「同じ服ばかり着たがる」「下着やパジャマに着替えるのを嫌がる」「服の前後や裏表がわからなくなる」といった様子が見られる場合は、着替え特有の環境づくりや声かけの工夫が役立つことがあります。
ご本人の自尊心を守りながらスムーズに着替えをサポートする具体策は、以下の記事で詳しく解説しています。
👉 認知症で着替えを嫌がる・服を脱ぎたがらない理由とは?安心につながる声かけと工夫
ステップ3:シャワーではなく「かけ湯」や「桶」で刺激を減らす
浴室に入れたら、いきなりシャワーのスイッチを入れるのは避けましょう。まずは洗面器(桶)に汲んだお湯をご本人の手で触ってもらい、「ちょうどいいお湯加減ですね」と確認します。
その後、足先から膝、太もも、手先へと、心臓から遠い場所から順番にゆっくり「かけ湯」をしていくと、お湯への恐怖心が和らぎやすくなります。
髪や体を流す際も、シャワーヘッドを体に密着させるくらい近づけてお湯の音を小さくするか、桶でお湯をすくって静かに流す方法がおすすめです。
「今日はお風呂に入らなくても大丈夫」|無理強いしない代替ケア(足湯・清拭)

毎日湯船に浸からなくても、足湯や温かいタオルでの清拭(せいしき)を取り入れることで清潔を保つことは可能です。
「今日は入らなくても大丈夫」という心の余裕が、結果的にご本人の警戒心を解くきっかけになることもあります。
どれほど工夫しても、ご本人が強い拒否を示す日はあります。
そのような時に無理やり浴室へ連れて行こうとすると、「お風呂=嫌なことをされる場所」という記憶がさらに強まってしまいます。
リコケアコナーズでは、ご家族にまず「今日はお風呂に入らなくても大丈夫ですよ」とお伝えしています。
全身浴ができなくても、以下のような段階的アプローチ(スモールステップ)で清潔と心地よさを保つことができます。
1. リラックスと清潔を兼ねた「足湯・手浴」の取り入れ方
服を脱ぐことや浴室へ行くことに抵抗がある場合は、リビングや洗面所の椅子に座ったまま、靴下だけを脱いで行う「足湯」が非常に有効な選択肢となります。
- 大きめの洗面器やバケツに、少し温かめ(39〜40度程度)のお湯を張る
- お茶を飲んだり、好きな音楽やテレビを見たりしながら10分ほど足を温める
- お湯の中で足の指の間やかかとを優しく洗う
足湯には血行を促し、心身の緊張をほぐす働きが期待できます。介護現場でも、最初は「お風呂なんて絶対に入らない」と怒っていた方が、足湯で体がポカポカと温まるうちに表情が穏やかになり、「こんなに気持ちいいなら、ついでに背中も流してもらおうかな」と自ら浴室へ向かわれるケースは少なくありません。
2. 温タオル(蒸しタオル)を活用した段階的な清拭(せいしき)
足湯とあわせて、あるいはベッドや椅子に座ったままで行えるのが「温タオルでの清拭」です。
少し熱めのお湯で絞ったタオル(または濡らして電子レンジで温めた蒸しタオル※火傷に注意して温度を確認したもの)を、まずはご本人の手に渡して顔や首元を拭いてもらいます。
「温かいタオル、気持ちいいですね」と共感しながら、汗をかきやすい首筋、脇の下、背中、胸元へと少しずつ拭く範囲を広げていきます。
毎日全身を拭こうと気負わず、「今日は上半身だけ」「明日は足と陰部だけ」と日を分けてケアするだけでも、衛生面は十分に保ちやすくなります。
3. 補助的なケア用品の活用(基本ケアにプラスする選択肢)
生活リズムや室温の調整、声かけの工夫といった基本ケアを行ったうえで、どうしても入浴の間隔が空く場合やご家族の負担が大きい時には、市販の介護用ケア用品を補助的に取り入れるのも一つの方法です。
- 洗い流さないシャンプー(ドライシャンプー・手袋型シャンプー):
水を使わずに頭皮の汗や皮脂を拭き取れるため、洗髪を嫌がる方の気分転換に役立ちます。 - お湯に溶かすだけの清拭料・大判の介護用ウエットタオル:
石鹸成分を拭き取る二度拭きの手間が省け、肌への摩擦や乾燥を抑えながら短時間で体を拭くことができます。
デイサービスでお風呂に入らない時の考え方と連携のポイント

デイサービス(通所介護)で入浴を断ってしまう場合も、ご自宅での様子やご本人の好みをスタッフと細かく共有することで、事業所の環境に合わせた柔軟な対応が見つかる可能性があります。
「家で入れないからデイサービスを利用しているのに、そこでも断ってしまった」と落胆されるご家族は少なくありません。
しかし、デイサービスでの入浴拒否にも明確な理由があります。
なぜデイサービスでも入浴を嫌がるのか?
デイサービスはプロのスタッフが対応する一方で、ご本人にとっては以下のような緊張要因が重なりやすい場所でもあります。
- 自宅とは違う慣れない環境や、大浴場の広さ・音の反響に戸惑う
- 他の利用者や若いスタッフに裸を見られることへの強い羞恥心がある
- デイサービスに到着した直後の移動疲れや、逆に帰る前の慌ただしさで気分が乗らない
家庭での様子を記録し、ケアマネジャーや事業所へ伝えるポイント
デイサービスで入浴を断られたからといって、すぐに諦める必要はありません。
まずは担当のケアマネジャーやデイサービスの相談員に、ご自宅での様子を伝えてアプローチをすり合わせてみましょう。
- 嫌がるポイントの共有:
「頭からシャワーをかけられるのが怖いようです」「急に服を脱がされると怒りやすいです」など、具体的な苦手を伝えます。 - 好みの共有:
好きなお湯の温度、同性介助の希望、好きな入浴剤や香り、落ち着く話題などを共有します。 - 段階的ケアの相談:
「無理に全身浴をさせず、まずはデイサービスでも足湯や温かいタオルで拭くだけにして、『お風呂場は気持ちいい場所だ』と感じてもらうところから始めてほしい」とリクエストすることも可能です。
あわせて読みたい:そもそも「デイサービスに行くこと」自体を嫌がる時は
「お風呂に入れてもらいたいのに、朝になるとデイサービスに行くこと自体を渋ってしまう」「『お風呂に入れられる場所だ』と警戒して通所を嫌がるようになった」とお悩みのご家族も少なくありません。
ご本人がデイサービスに行きたがらない背景にある心理や、朝の送り出しがスムーズになりやすい声かけ例、段階的な慣らし方のステップについては、以下の記事で詳しく解説しています。
👉 デイサービスに行きたがらない時の対応法|拒否の背景と段階的な慣らし方
主治医・ケアマネジャーへの「相談の目安」と観察・記録のコツ

入浴拒否の背景に皮膚疾患や関節の痛み、あるいはお薬の影響などが隠れている場合もあるため、家庭での様子を記録して医師やケアマネジャーなどの専門職へ相談することが大切です。
家庭での環境調整や声かけの工夫を試みても状況が変わらない場合や、ご家族の介護負担が重くなっている場合は、一人で抱え込まずに専門職へ相談しましょう。
専門職(医師・薬剤師・ケアマネジャー)へ相談すべき目安
以下のような様子が見られる場合は、認知症の症状だけでなく、身体的な不調や薬の影響が関係している可能性があります。
- 服を脱ぐ時や体を動かす時に、特定の部位(肩、腰、膝など)をかばったり痛がったりする
- 皮膚に赤み、湿疹、掻き壊し、水虫、床ずれ(褥瘡)の初期サインなどが見られる
- 以前に比べて急激に怒りっぽくなった、または日中に強い眠気(傾眠)やふらつきが見られる(※お薬が合わないサインの可能性も考えられます)
- 陰部の清潔が保てず、尿路感染症や皮膚トラブルのリスクが心配される
- ご家族が入浴介助のストレスで眠れない、イライラしてご本人を責めてしまうなど、心身の限界を感じている
【重要:お薬や医療に関する注意点】
もし「最近お薬が変わってから怒りっぽくなった気がする」「日中のぼんやり感が強くてお風呂に入れない」と感じる場合でも、ご家族の判断でお薬の量を減らしたり中止したりすることは絶対に避けてください。
薬の変更・減量・中止は、必ず医師・薬剤師が専門的に判断する領域です。気になる変化がある時は、日々の様子を記録したうえで、かかりつけ医や薬剤師へ相談することが安全なケアにつながります。
相談前に整理しておきたい「観察・記録シート」の項目
主治医やケアマネジャーに相談する際は、「お風呂に入ってくれない」とだけ伝えるよりも、以下のように状況を整理して伝えると、具体的なアドバイスやケアプランの見直しにつながりやすくなります。
| 観察・記録の項目 | メモしておきたい具体的な内容の例 |
| 時間帯とタイミング | 何時頃に誘ったか(例:夕方17時頃、夕食前など) |
| 直前のご本人の様子 | 水分はとれていたか、トイレは済んでいたか、疲れている様子はなかったか |
| どの段階で嫌がったか | 声かけの段階/脱衣所に行く段階/服を脱ぐ段階/シャワーをかける段階 |
| ご本人の言葉・反応 | 「寒い」「もう入った」「痛い」などの発言や、表情の変化 |
| 受け入れられたケア | 足湯ならできた、蒸しタオルで顔と背中だけは拭けた、着替えだけはできた等 |
訪問入浴や訪問看護など介護保険サービスの検討
デイサービスでの入浴がどうしても難しい場合や、ご自宅のお風呂場での介助が身体的に危険な場合は、ケアマネジャーに相談して以下のサービスを検討する方法もあります。
- 訪問介護(ホームヘルプ):
ホームヘルパーが自宅を訪問し、入浴介助や清拭、足湯、着替えのサポートを行います。
家族には甘えて断ってしまう方でも、外部のスタッフの声かけならすんなり受け入れられるケースがあります。 - 訪問看護:
看護師が体調や皮膚の状態を観察しながら、医療的な視点を含めて清拭や入浴のケアを行います。 - 訪問入浴介護:
専門スタッフが浴槽を自宅に持ち込み、ベッドの横などで入浴をサポートします。
認知症の方の入浴拒否に関するよくある質問(FAQ)
入浴の間隔や緊急時の対応、ご家族自身の気持ちの切り替えなど、日々の介護で迷いやすい疑問にお答えします。
Q1. 何日くらいお風呂に入らなくても大丈夫でしょうか?
A. 季節や発汗量、排泄の状況にもよりますが、高齢の方は若い頃に比べて皮脂の分泌が少なくなっているため、毎日全身浴をしなくても直ちに健康を損なうケースは少ないとされています。
週に1〜2回程度の入浴を目標にしつつ、入らない日は「温タオルでの部分清拭」や「陰部・足先の洗浄」「肌着の交換」ができていれば、過度に心配しすぎる必要はありません。
ただし、皮膚の赤みや湿疹、強い体臭、陰部のトラブルが見られる場合は、早めに主治医や訪問看護師、ケアマネジャーへご相談ください。
Q2. 無理に入れようとすると激しく怒り出す時はどうすればいいですか?
A. ご本人が怒り出したり強い拒否を示したりした時は、その場でただちに勧めるのをやめて一旦離れること(クールダウン)が鉄則です。
「そうでしたね、今日はゆっくり休みましょう」と穏やかに伝えて話題を変え、お茶やお菓子を出して気分を切り替えます。
時間を置いて別の日に、足湯や清拭など負担の少ない方法から改めて試してみましょう。
Q3. 夏場など汗をかく季節に服を着替えたがらない場合の工夫はありますか?
A. 「着替えましょう」と声をかけると拒否される場合は、同じ色や似たデザインの服を複数枚用意しておき、ご本人がトイレに立った際や蒸しタオルで体を拭いた流れで、さりげなく新しい服を手渡す工夫があります。
また、最初から「お風呂」を目指さず、「汗を拭いてさっぱりしたら、冷たいお茶を飲みましょう」と、着替えた後の楽しみをセットにして提案するのも環境づくりの一助になります。
Q4. 家族が声かけをしても聞いてくれない時は誰に頼ればいいですか?
A. 身近なご家族だからこそ、遠慮がなくなって強く拒否してしまうことは非常によくあります。
まずは担当のケアマネジャーに現状を相談してください。ケアマネジャーがまだいない場合は、お住まいの地域の「地域包括支援センター」が相談窓口となります。
第三者である専門職が入ることで、ご本人の気持ちが変わったり、ご家族の負担を減らす具体的なサービス調整が進んだりする可能性があります。
まとめ|一人で抱え込まず、状況を整理して専門職へ相談しましょう

入浴を嫌がる理由はご本人なりの不安や不快感にあることが多く、無理をしない段階的なケアと専門職への相談が、穏やかな暮らしを守る土台になります。
認知症の方がお風呂を嫌がる時は、ご家族の対応が悪いわけでも、ご本人が意地悪をしているわけでもありません。
寒暖差やシャワーの音、羞恥心、疲労といった「見えにくい不快感」を一つずつ取り除き、「今日は足湯だけでも十分」「タオルで拭けたから大丈夫」とハードルを下げていくことで、少しずつ落ち着く場面が増えていく可能性があります。
どうかご家族だけで抱え込まず、日々の様子をメモに残して、主治医やケアマネジャーと一緒に無理のないケア方法を探していきましょう。
【参考・出典情報】
- 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」「認知症の人と家族の一体的支援プログラム」
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症サポート医・介護家族向け情報」
- 公益社団法人 日本老年医学会 / 厚生労働省「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」
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このチェックリストは、症状を無理に抑えたり治したりするためのものではなく、「水分・排泄・室温・睡眠・お薬の状況など、ご家庭での様子を客観的に整理し、主治医やケアマネジャーへスムーズに相談するための準備ツール」として作成しました。
該当する項目にチェックを入れるだけで、「今、ご本人が何に困っているのか」「専門職に何を伝えればいいのか」が一目で整理できるようになります。ご家族の心の負担を少しでも軽くするために、ぜひお役立てください。
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※本チェックリストは薬の自己判断による変更・中止を勧めるものではありません。
気になる症状がある場合は、必ずかかりつけ医・薬剤師・担当ケアマネジャーへご相談ください。
執筆・監修:リコケアコナーズ
- 菅原 浩平(主任ケアマネジャー、介護福祉士)
- 菅原 嘉奈(ケアマネジャー、介護福祉士、認知症リハビリテーション専門士)