Last Updated on 2026年10月10日 by contact@konnors.net
認知症の方が食事を前にして手が止まったり、食べ方がわからなくなったりする背景には、道具の使い方がわからなくなる「失行」や、食べ物を識別しにくくなる「失認」、注意力の低下など複数の要因が関係している場合があります。
まずは無理に道具を使わせようとせず、食卓の環境を整え、ご本人の視線や手の動きを丁寧に観察することから始めてみましょう。
この記事でわかること
- 食事を前にして固まる・箸が使えなくなる主な要因と背景
- 自助具を導入する前に試したい「食器のコントラスト」と「配置」の環境調整
- 手づかみや戸惑いが見られたときの適切な声かけと介助のポイント
- 変化を家庭で記録し、ケアマネジャーや専門職へ相談する目安
【発信者・監修】
- 発信者:リコケアコナーズ
- 監修:
菅原浩平(主任ケアマネジャー、介護福祉士)
菅原嘉奈(ケアマネジャー、介護福祉士、認知症リハビリテーション専門士)
※本記事は、ケアマネジャー・介護福祉士としての経験をもとに、家庭でできる生活環境の見直しを解説しています。医学的な診断・治療・薬の調整については、必ず主治医・薬剤師へご相談ください。
※今の対応で合っているか不安な方は、記事後半でも紹介する公式LINE登録者特典『家庭でできる認知症ケアの見直しチェックリスト』もご活用ください。

公的根拠・一次情報・参考指針:
- 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』
- 厚生労働省『認知症施策推進大綱』および『共生社会の実現を推進するための認知症基本法』関連資料
- 国立長寿医療研究センター(NCGG)『認知症の人の生活支援・栄養ケア指針』
- 厚生労働省 老人保健健康増進等事業『認知症高齢者の摂食嚥下・食行動障害に関する調査研究』
1. 認知症で「食事の食べ方がわからない」状態が起こる主な原因

食事が進まない背景には、本人の意欲低下だけでなく「道具の使い方がわからない」「食べ物と認識しづらい」といった脳の機能変化が関係している場合があります。
食事を前にして急に手が止まる、箸を握ったまま固まる、あるいは手づかみで食べ始める姿を見ると、ご家族は「どうして急にできなくなったのだろう」「嫌がっているのだろうか」と戸惑うことが多いものです。
しかし、これは決して食べる意欲がないわけでも、わがままで食事を拒んでいるわけでもありません。
道具の使い方がわからなくなる「失行(しっこう)」
失行とは、手足に麻痺や筋力の著しい低下がないにもかかわらず、これまで当たり前に行ってきた動作の順序や、道具の使い方がわからなくなる状態を指します。
- 箸をどのように指に挟めばよいか思い出せない
- 箸を上下逆さまに持ってしまう
- 箸で食べ物をつまむ一連の動作の順序が抜け落ちてしまう
頭では「食べたい」と思っていても、脳からの指令が指先の連動した動きとしてうまく出力されにくくなっている状態といえます。
食べ物や食器が認識しづらくなる「失認(しつにん)」
視力そのものに大きな問題がなくても、目から入った情報を脳が正しく処理できず、それが「食事である」「お茶碗である」と識別できなくなる状態を失認と呼びます。
- 白いご飯と白いお茶碗の境目が判別できない
- 汁物の表面を見ても、中に具材が入っていることに気づかない
- テーブルクロスの木目やランチョンマットの柄に注意が奪われ、食べ物に焦点が合わない
視覚情報の整理が難しくなることで、目の前にあるものが食べ物であると把握できず、食べ始めるきっかけがつかめなくなっているケースが見られます。
視野の狭まり・注意力の低下と体調(水分・疲労)の影響
認知症の進行に伴い、左右や上下の視野が徐々に狭くなる傾向があります。目の前に膳が置かれていても、端にある小鉢が本人の視界にまったく入っていないことも珍しくありません。
また、全身のコンディションも食事動作に大きく影響します。
- 脱水傾向:
体内の水分が不足すると、覚醒レベルが低下してぼんやりしやすくなります。 - 睡眠不足や疲労:
夜間の不眠や日中の疲れがたまっていると、集中して食事を続ける体力が保てません。 - 排泄の不快感:
便秘や尿意を我慢している状態では、落ち着いて食事に向き合うことが難しくなります。
2. 自助具を検討する前に!まずは「本人の動きと視線の観察」から

すぐにスプーンや専用の自助具を導入するのではなく、まずはご本人の視線の配り方や手の動きを丁寧に観察することが、適切なサポートへの第一歩になります。
「箸が使えないなら、すぐに介護用スプーンや自助具(使いやすく工夫された箸など)を用意しなければ」と考えがちですが、焦って新しい道具を食卓に出すと、かえって混乱を招く場合があります。
スプーンや自助具の導入を急がない理由
認知症の方にとって、「見慣れない新しい形の道具」はそれ自体が理解しづらい対象になることがあります。
「これは何に使うものだろう?」と警戒してしまい、余計に手が止まってしまうケースも少なくありません。
長年使い慣れてきた「箸」という道具の記憶は、失行があっても部分的に保たれていることがあります。
適切な声かけや環境調整によって、再び箸で口へ運べる場面も見られます。
まずは「動作のどの段階で止まっているのか」を把握することが先決です。
観察すべき3つのポイント
食事中のご本人の様子を、以下の3つの視点から観察してみましょう。
| 観察ポイント | 具体的な観察内容 | 考えられる要因の例 |
| 1. 視線の配り方 | 膳全体を見渡しているか、1点だけを凝視しているか、視線が宙を泳いでいるか | 視野の狭まり、失認、配膳数が多すぎることによる注意散漫 |
| 2. 手の動き | 箸を持とうとするか、触れて止まるか、手づかみしようとするか | 持ち方の失行、道具の用途の失認、触覚による確認行動 |
| 3. 疲労度と覚醒 | 食事開始時と中盤で動きが変わるか、うとうとしていないか | 咀嚼・嚥下機能の疲労、体内時計の乱れ、全身状態の低下 |
3. 家庭ですぐに実践できる食事の環境調整

特別な道具を購入する前に、「食器のコントラスト」「一度に並べる品数」「照明」など、食卓の環境を整えることで本人が食事を捉えやすくなる可能性があります。
リコケアコナーズの現場支援でも、食卓の視覚的な工夫を取り入れるだけで、ご本人が自力で箸を進めやすくなる場面を数多く経験しています。
食器のコントラスト(色の濃淡)で食べ物を際立たせる
白いお米を白いお茶碗によそうと、色の差(コントラスト)が小さいため、どこまでが器でどこからがご飯なのか判別しにくくなります。
- ご飯茶碗の工夫:
内側が黒、濃い茶色、濃紺などの器を選ぶと、白いご飯との境界がはっきりして存在を捉えやすくなります。 - テーブルクロスの工夫:
模様や縞柄のあるランチョンマットは避け、無地の落ち着いた色合いのものを使用します。
食器と同化しない反対色を選ぶと、器の位置がひと目でわかりやすくなります。
視覚的な輪郭を際立たせることで、本人が「そこにご飯がある」と直感的に認識しやすくなります。
一度に並べる品数を減らし、視覚的混乱を防ぐ
一汁三菜の伝統的な配膳は美しく栄養バランスも整いますが、認知症の方にとっては「情報の過多」になり、どれから手を付けてよいか判断がつかなくなる原因になることがあります。
- 1品ずつの配膳やワンプレート化:
最初にご飯と主菜だけを出し、それが進んだら小鉢や汁物を出すなど、一度に視界に入る皿の数を減らします。 - 余計な物を食卓から下げる:
醤油差し、塩、予備の箸、ティッシュケース、薬の袋などは、食事の視界に入らない場所へ移動させておきましょう。
照明の当て方と食事に集中できる周囲の環境づくり
食卓の上が薄暗かったり、天井照明の位置関係で手元に濃い影が落ちていたりすると、料理の立体感が失われてしまいます。
- 真上からの十分な明るさ:
影ができにくいよう、食卓全体を明るく照らす照明を意識します。 - 音や刺激のコントロール:
テレビやラジオがついていると、注意がそちらへ分散してしまいがちです。
食事中はテレビを消し、穏やかな音楽を小さく流すなど、食事に意識を向けやすい落ち着いた環境を整えましょう。
4. 食事中の困った場面への具体的な対応と声かけ

動作が止まったときは言葉で指示するのではなく、最初の一口を一緒に運ぶなど、自然なきっかけづくりを意識することが安心感につながります。
箸を持ったまま固まってしまったとき、「早く食べて」「箸を動かして」と言葉だけで急かすと、ご本人は焦りや不安を感じ、余計に身動きが取れなくなってしまいます。
箸が使えずに手が止まったときの誘導ステップ
道具を使う一連の流れの「最初のきっかけ」をつかめなくなっていることが多いため、初動をさりげなくサポートします。
- 隣または斜め前に座る:
正面に向かい合って見つめられると圧迫感を感じやすいため、少し横の位置に座ります。 - 手の上にそっと手を添える:
ご本人の手の上から優しく手を重ね、一緒に箸を持ち上げます。 - 一口目を一緒に口元へ運ぶ:
最初の一口が口に入り、味や温かさを舌で感じると、「これは食事の時間だ」と認識がよみがえり、二口目からは自力で動かし始めることがあります。 - 食べる動作を見せる(モデリング):
介護者自身も一緒に食べ物を口へ運び、「美味しいですね」と笑顔で咀嚼する姿を見せることで、自然な模倣動作を引き出しやすくなります。
手づかみ食べが始まったときの受け止め方と工夫
箸を使わずに素手で料理をつまみ始めた場合、慌てて手を払ったり制止したりする必要はありません。
手づかみは「自分で口へ運びたい」という前向きな意欲の表れであり、手のひらの感覚を通して食べ物の温度や硬さを確かめている行動でもあります。
- 手でつまみやすい形態にする:
一口サイズのおにぎり、小さく切った卵焼き、柔らかく煮た野菜スティックなど、手で持っても崩れにくい料理を一皿用意します。 - 清潔を保てる配慮:
手元に温かいおしぼりやウェットティッシュを用意し、手が汚れたらさりげなく拭き取れるようにしておきます。
避けたい声かけ(NG)と望ましい声かけ(OK)
| 場面 | 避けたい声かけ・対応(NG) | 望ましい声かけ・工夫(OK) |
| 手が止まっている | 「冷めちゃうから早く食べて」「箸を動かして」 | 「温かいお味噌汁、いい香りがしますね」「一口ご一緒しましょうか」 |
| 箸の持ち方が乱れる | 「持ち方がおかしいよ!」「ちゃんとして」 | そっと手を添えて持ち直すのを手伝う、または使いやすいスプーンを視野の端にそっと置く |
| 手づかみで食べる | 「汚いから手で食べちゃダメ!」と手を叩く | 「自分で食べようとしてくれてありがとう」と受け止め、一口おにぎりなどに切り替える |
5. 基本ケアの見直しと補助的な選択肢としての福祉用具

道具の選定に入る前に、生活リズムや水分・排泄といった身体の土台を整えることが大切です。
そのうえで補助的な選択肢として福祉用具を検討しましょう。
食事の動作だけに焦点を当てるのではなく、日々の生活全体の土台が整っているかを見直すことが、結果として食事動作の安定につながります。
まず確認したい生活リズム・水分・排泄の基本ケア
- 生活リズムと体内時計:
朝起きたらカーテンを開けて朝日を浴びる習慣をつけると、体内時計が整い、日中の覚醒状態が維持されやすくなります。 - 食事前の水分補給:
軽度の脱水があると口の中が乾き、嚥下反射が鈍くなるだけでなく、注意力の散漫を招きます。
食前に少量のお茶や白湯を口に含んでもらうと、口内が潤い、食事への意識が向きやすくなります。 - 排泄リズムの確認:
便秘や残尿感による下腹部の違和感は、本人が自覚しにくい強い不快感となります。
食前にトイレへ誘導し、すっきりした状態で食卓についていただく配慮が役立ちます。
補助的な選択肢としてのスプーン・自助具の選び方
環境調整や基本ケアを行っても箸の操作が難しい場合、無理をさせずに本人の自立を支える補助ツールとして福祉用具の活用を検討します。
- 太柄のスプーン・フォーク:
持ち手部分が太く設計されているものや、シリコン・スポンジが巻かれているものは、細かな指の力を使わずに手のひら全体で握ることができます。 - すくいやすい深皿(フチ付き食器):
器の内側のフチが内側に反り返っている構造の食器は、スプーンで料理をすくう際に食べ物がこぼれにくく、スムーズにすくい上げることができます。 - 見た目の自然さへの配慮:
いかにも「介護用」とわかるデザインよりも、木目調や陶器風など、普段の食卓に馴染みやすいデザインを選ぶと、ご本人の自尊心を保ちやすくなります。
6. 専門職へ相談する目安と「食事観察メモ」の残し方
食事動作の変化は心身状態を知る重要なサインです。
家庭での様子を具体的に記録し、ケアマネジャーや訪問リハビリ(作業療法士)へ早めに共有しましょう。
食事の介助をご家族だけで抱え込んでしまうと、毎日の負担が重なり介護疲れにつながります。
適切なタイミングで専門職のサポートを仰ぎましょう。
ケアマネジャーや主治医・リハビリ専門職へ相談する目安
以下のような兆候が見られる場合は、ケアマネジャーや主治医への相談をおすすめします。
- 食事にかかる時間が以前より極端に長くなり、1食に40分〜1時間以上かかるようになった
- 水分や汁物で頻繁にむせる、食事後に声がかすれる(ガラガラ声になる)
- 食事量が以前の半分以下に減り、体重減少が続いている
- 食事を促すと強い拒否感を示したり、落ち着きがなくなったりする場面が増えた
ケアマネジャーを通じて訪問リハビリテーションを依頼すると、作業療法士(OT)がスプーンの選定や姿勢の調整を評価してくれたり、言語聴覚士(ST)が飲み込みの安全性を確認してくれたりします。
相談をスムーズにする「家庭での食事観察メモ」の書き方
受診時やケアマネジャーへの相談時、「食べ方がおかしい」という大まかな訴えだけでは、具体的な対応策を検討しにくい場合があります。
直近の様子を客観的な事実としてメモしておきましょう。
【食事観察メモの記入例】
* 日時:
2026年◯月◯日(朝食)
* 状態:
ご飯茶碗をじっと見つめたまま、箸を手に取ろうとしない。
* 試した対応:
黒い茶碗に変えて手を添え一口促すと、その後は自力でスプーンを使って半分ほど摂取。
* むせ・体調:
むせなし。前夜の睡眠は良好。
このようなメモが数日分あるだけで、主治医やケアマネジャーも状況の推移を正確に捉えやすくなります。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 手づかみ食べを無理にやめさせるとどうなりますか?
無理に手を押さえつけたり厳しく注意したりすると、ご本人は「怒られた」「恥をかかされた」という感情だけが残り、食べる意欲そのものを失ってしまうリスクがあります。
手づかみは「自分で食べたい」という意志の表れです。
まずは手でつまんで食べやすい形状(一口おにぎりや卵焼きなど)を用意し、安全に食事が進むことを優先して見守ってあげてください。
Q2. 毎食1時間以上かかって介護者が疲弊してしまいます。どう調整すべきですか?
1回の食事が40分を超えると、食べる側も疲労して集中力が切れ、誤嚥(ごえん)のリスクが高まります。
時間が長引く場合は、30〜40分程度を目安に一旦食事を切り上げましょう。
不足した栄養や水分は、無理に1食で補おうとせず、日中の間食(ゼリー、プリン、栄養補助食品など)で少しずつ補填する方法も有効です。
Q3. スプーンに変えても食べてくれないときは、どんな原因が考えられますか?
道具の問題ではなく、口の中のトラブル(口内炎、歯槽膿漏、入れ歯の当たりなど)による痛みや、空腹を感じていない可能性が考えられます。
また、料理の温度が冷め切ってしまい美味しさを感じにくくなっている場合もあります。
一度お口の中を確認し、必要に応じて訪問歯科やかかりつけ歯科への相談を検討してみてください。
Q4. 以前より急に食事動作が乱れた場合、何を疑うべきですか?
数日の間に急激に食べ方がわからなくなったり、ボーッとする時間が増えたりした場合は、脱水症、便秘、尿路感染症などの身体疾患や、内服薬の影響(眠気やふらつき)が隠れていることがあります。
急な変化が見られた際は、自己判断で対応せず、速やかにかかりつけ医や訪問看護師、ケアマネジャーへ連絡してください。
8. まとめ:家族だけで抱え込まず、小さな環境調整から始めましょう
認知症の方の「食べ方がわからない」という変化は、介助するご家族にとっても日々のプレッシャーになりやすい問題です。
「なぜ食べてくれないのか」「自分の介助が悪いのかな」とご自身を責める必要はまったくありません。
まずは照明やお皿の色の工夫、品数を絞るといった小さな環境調整から試してみてください。
日々の食事の様子をメモに残しながら、主治医やケアマネジャー、リハビリ専門職といった周囲の力を頼り、穏やかな食卓の時間を少しずつ増やしていきましょう。
主治医やケアマネジャーに相談する前に、今の状況を整理してみませんか?
「最近、親の食事の様子が変わってきたけれど、どこから相談すればいいかわからない……」
「毎日の食事介助で、自分の対応が合っているのか不安になる」
そんなご家族のために、リコケアコナーズ公式LINEでは、家庭での観察ポイントをわかりやすくまとめた特典を無料でお届けしています。
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※本チェックリストは薬の自己判断による変更・中止を勧めるものではありません。
気になる症状がある場合は、必ずかかりつけ医・薬剤師・担当ケアマネジャーへご相談ください。
執筆・監修:リコケアコナーズ
- 菅原 浩平(主任ケアマネジャー、介護福祉士)
- 菅原 嘉奈(ケアマネジャー、介護福祉士、認知症リハビリテーション専門士)