軽度認知障害(MCI)とはどんな状態?

MCIの定義

軽度認知障害(MCI)とは、認知機能の低下が見られるものの、日常生活に大きな支障が出るほどではない状態のことです。

厚生労働省の定義によると、MCIは
「年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在するものの、日常生活動作は自立している状態」
とされています。

この定義からMCIは、認知症の前段階とも言える状態ですが、実はもう少し複雑です。

まず、MCIは「正常な老化」と「認知症」の間のグレーゾーンと捉えられています。

加齢に伴い、誰でも多少の物忘れは経験しますよね。
しかし、MCIの場合は、その物忘れが年齢相応の範囲を超えているものの、日常生活に支障をきたすほどではない状態を指します。

具体的な基準としては、以下の点が挙げられます。

  • 記憶力などの認知機能の低下
    検査で一定の認知機能の低下が認められる。
  • 日常生活動作は自立している
    家事や仕事、趣味など、日常生活は問題なく送れている。
  • 認知症ではない
    認知症と診断されるほどの重度の認知機能障害はない。

ただ、MCIと一口に言っても、その症状や進行の度合いは人それぞれです。
大きく分けて、「①記憶障害が中心のMCI」と「②記憶以外の認知機能障害が中心のMCI」の2つのタイプに分類されます。

①は、アルツハイマー型認知症の前段階である可能性が高く、物忘れが主な症状です。

一方、②は、注意力の低下や判断力の低下、言語能力の低下など、記憶以外の認知機能に障害が見られるタイプです。

MCIの原因・症状

MCIの原因は、残念ながらまだ完全には解明されていません。
しかし、多くの研究から、様々な要因が複合的に絡み合っていると考えられています。

MCIの原因

1. アルツハイマー病との関連

MCIの最も大きな原因の一つとして、アルツハイマー病との関連が指摘されています。
アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβやタウタンパク質といった異常なタンパク質が蓄積することで、神経細胞が損傷し、認知機能が低下していく病気です。
MCIの段階では、これらのタンパク質の蓄積が始まっているものの、まだ認知症と診断されるほどの神経細胞の損傷には至っていないと考えられます。

※アミロイドβがアルツハイマー病の発症に関わっているという仮説は、現在

2. 脳血管障害

脳卒中などの脳血管障害も、MCIのリスク因子となります。
脳血管障害によって脳の血流が阻害されると、神経細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなり、機能が低下してしまうことがあります。

3. 生活習慣病

高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病も、MCIのリスクを高める要因となります。
これらの病気は、動脈硬化を引き起こし、脳血管障害のリスクを高めるだけでなく、脳の神経細胞にも悪影響を及ぼす可能性があります。
それを結論付けるかのように、生活習慣病はアルツハイマー病の原因であるとも考えられています。

4. その他の要因

  • 加齢
  • 遺伝的要因
  • 頭部外傷
  • 甲状腺機能低下症
  • ビタミンB12欠乏症
  • うつ病
  • 薬の副作用

MCIの症状

MCIの症状は、人によって様々ですが、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 記憶障害:
    • もの忘れが目立つ
    • 同じことを何度も言ったり聞いたりする
    • 約束を忘れる
    • 置き忘れが多い
    • 最近の出来事を覚えられない
  • 注意力の低下:
    • 集中力が続かない
    • 気が散りやすい
    • 話を聞いていないように見える
  • 実行機能の低下:
    • 物事の計画や段取りが苦手になる
    • 問題解決能力が低下する
    • 判断力が鈍る
  • 言語能力の低下:
    • 語彙力が低下する
    • 話がまとまらない
    • 相手の言っていることが理解しにくい
  • 視空間認知能力の低下:
    • 図形や空間を認識するのが難しくなる
    • 道に迷いやすくなる

これらの症状は、加齢による変化と区別がつきにくい場合もあるため、注意が必要です。

ご自身やご家族に気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、専門医の診断を受けることをおすすめします。

軽度認知障害(MCI)とは、認知症の前段階の状態であり、記憶障害が中心の症状と、それ以外(注意力、実行機能、言語機能、視空間認知力の低下など)

MCIと認知症との違い

MCIと認知症は、どちらも認知機能の低下を伴う状態ですが、その違いを明確に理解することは、適切な対応をとる上で非常に重要です。

認知機能低下の程度

最も大きな違いは、認知機能低下の程度です。

MCIは、認知機能の低下が見られるものの、日常生活に大きな支障が出るほどではありません。
一方、認知症は、認知機能の低下が著しく、日常生活に支障をきたす状態です。

具体的には、以下のような違いがあります。

項目MCI認知症
認知機能の低下軽度中~重度
日常生活への影響ほとんど支障なし支障あり
介護の必要性基本的に不要必要となる場合が多い
判断力保たれている障害される場合がある
見当識保たれている障害される場合がある

脳の変化

MCIと認知症では、脳に起こっている変化にも違いがあります。

MCIでは、脳の神経細胞の減少や萎縮が始まっているものの、まだ軽度です。
加齢による自然な萎縮と、さして違いのないレベルです。

一方、認知症では、神経細胞の損傷が進行し、脳の萎縮も顕著になります。

これは、MRIなどの検査によってはっきりわかることです。

進行の可能性

MCIは、必ずしも認知症に進行するわけではありません。
MCIと診断された人のうち、年間で約5~15%の人が認知症に移行すると言われています。

しかし、早期に発見し、適切な対策を講じることで、認知症への進行を遅らせたり、防いだりできる可能性があります。

加齢によるもの忘れとの違い

加齢によるもの忘れとMCIの違いは、もの忘れの頻度や程度です。

加齢によるもの忘れは、たまに物を置き忘れたり、人の名前が思い出せなかったりする程度です。
40代など、若いうちからでもよくあることかと思います。

しかし、MCIの場合は、日常生活に大きな支障はないまでも、これまでになかったようなもの忘れが頻繁に起こるなど、本人や周りが「まさか?」と思ってしまう症状が見られます。

また、MCIでは、もの忘れ以外にも、判断力の低下や感情の不安定さなどが見られることがあります。

MCIの兆候・チェックリスト

セルフチェックリスト

以下の項目に当てはまるものが3項目以上ある場合は、MCIの可能性があります。

  1. 物忘れが以前より増えたと感じる
  2. 同じことを何度も言ったり聞いたりする
  3. 約束を忘れることが多くなった
  4. 場所や時間が分からなくなることがある
  5. 判断力が低下したと感じる
  6. 人の名前が思い出せない
  7. 感情の起伏が激しくなった
  8. 以前楽しめていたことに興味が持てなくなった

MCIを決定づけるチェックリストではありませんが、このような症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。

MCI セルフチェックリスト
・物忘れが以前より増えたと感じる
・同じことを何度も言ったり聞いたりする
・約束を忘れることが多くなった
・場所や時間が分からなくなることがある
・判断力が低下したと感じる
・人の名前が思い出せない
・感情の起伏が激しくなった
・以前楽しめていたことに興味が持てなくなった

MCIスクリーニング検査プラスとは?

上記のセルフチェックで、MCIの可能性を感じたら、早めに医療機関に相談してみてください。
セルフチェックはMCIを確定するものではないので、認知症への進行を防ぐためにも、早期発見・早期対応が推奨されます。

MCIかどうかを確定するために行われる検査に、MCIスクリーニング検査プラスがあります。

MCIスクリーニング検査プラスとはどんな検査か、以下にご紹介します。

特徴

  • 早期発見: 認知症になる可能性が高い状態を早期に発見できます。
  • 簡単: 2mlの採血だけで検査可能です。
  • 広範囲: 全国3,100ヶ所以上の医療機関で受けることができます。

検査内容

アルツハイマー型認知症の発症には、脳内の老廃物などを排出する機能の低下が関わっていると考えられています。
この検査では、血液中の特定のタンパク質の量を測定することで、その排出機能が正常に働いているかを調べます。

検査結果

検査結果は、A~Dの4段階で評価され、MCIのリスク度合いが分かります。
結果に応じて、生活習慣の改善や専門医への相談などの対応を検討することができます。

費用

検査費用は医療機関によって異なりますが、おおむね1万円前後です。

受診方法

MCIスクリーニング検査プラスを実施している医療機関は、検査公式サイトの検索ページから探すことができます。

MCIスクリーニング検査プラス 実施医療機関 検索サイト

MCIは、認知症になる可能性があることを示す反面、早期対応により、認知症への進行を防げる可能性も十分にあります。

セルフチェックリストを試してみて、それをきっかけに、医療機関で検査を受けてみてはいかがでしょうか。

MCIから認知症への進行を防ぐには

MCI、そして認知症の発症と進行には、生活習慣病が深く関わっていることが多くの研究で明らかになっています。

生活習慣病とは、食生活、運動習慣、喫煙、飲酒などの生活習慣が原因で引き起こされる病気の総称です。
代表的なものには、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などがあります。

これらの生活習慣病は、動脈硬化を促進し、脳血管障害のリスクを高めるだけでなく、脳の神経細胞にも直接的なダメージを与え、認知機能の低下を招く可能性があります。

MCIから認知症への進行を抑制し、健康な脳を維持するためには、生活習慣病の予防と治療が非常に重要です。

具体的には、以下の点に注意しましょう。

1. バランスの取れた食事

  • 野菜、果物、魚、海藻、大豆製品などを積極的に摂取する
  • 塩分、糖分、脂肪分の過剰摂取を控える
  • 特定の栄養素に偏らず、バランスのよい食事を心がける

2. 適度な運動

  • 30分程度のウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行う
  • 筋力トレーニングを取り入れる
  • 無理のない範囲で、継続的に運動を続ける

3. 禁煙

  • 喫煙は動脈硬化を促進し、脳血管障害のリスクを高める
  • 禁煙することで、MCIや認知症のリスクを減らすことができる

4. 節酒・断酒

  • 過度な飲酒は、脳の神経細胞に悪影響を及ぼす
  • 適量を守り、飲酒習慣を見直す

5. 定期的な健康診断

  • 血圧、血糖値、コレステロール値などを定期的にチェックする
  • 生活習慣病の早期発見・早期治療に努める

6. ストレス管理

  • ストレスは、認知機能の低下に繋がる可能性がある
  • 趣味や気分転換など、ストレスを解消する方法を見つける
  • 睡眠をしっかりとる

7. 水分補給

  • 1日1~1.5Lの水分補給を心がける
  • 水分補給するなら水か白湯が理想

これらの生活習慣の改善は、MCIの予防だけでなく、健康寿命の延伸にもつながります。

今日からできることから、少しずつ生活習慣を見直してみましょう。

MCIから認知症への進行を防ぐには
・禁煙
・バランスのとれた食事
・節酒、断酒
・ストレス管理
・適度な運動
・定期的な健康診断
・水分補給

まとめ

この記事では、軽度認知障害(MCI)について解説しました。ご自身やご家族の健康を守るために、以下の重要なポイントを覚えておきましょう。

  • MCIは認知症の「前段階」: MCIは、もの忘れなどの認知機能の低下が見られるものの、日常生活にはまだ大きな支障がない「正常と認知症の間のグレーゾーン」の状態です。
  • 日常生活への支障の有無が認知症との大きな違い: MCIの段階では、家事や仕事など身の回りのことは自立して行えますが、認知症に進行すると日常生活に支障が出てきます。
  • 必ずしも認知症に進行するわけではない: MCIと診断されても、全員が認知症になるわけではありません。年間約5〜15%が認知症に移行する一方、状態が維持されたり、健常な状態に回復したりするケースもあります。
  • 早期発見・早期対応がカギ: 生活習慣の改善や適切な対策を行うことで、認知症への進行を遅らせたり、予防したりできる可能性があります。「もしかして?」と感じたら、セルフチェックや医療機関への相談が重要です。
  • 生活習慣病の予防がMCI・認知症予防につながる: バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙、節酒など、健康的な生活習慣を心がけることが、脳の健康を守るために非常に効果的です。

軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階とも言える状態で、物忘れなどが目立つものの日常生活には支障がない状態です。

MCIと認知症の違いは、認知機能低下の程度です。
MCIは軽度で日常生活に問題はありませんが、認知症は重度で日常生活に支障をきたします。

MCIの原因は、アルツハイマー病との関連、脳血管障害、生活習慣病など、様々な要因が考えられます。

MCIの症状としては、もの忘れ、注意力の低下、実行機能の低下、言語能力の低下などがあります。

MCIと診断された場合でも、適切な治療や対策によって、認知症への進行を遅らせたり、防いだりできる可能性があります。

ご自身やご家族にMCIの兆候が見られる場合は、早めに医療機関を受診し、専門医の診断を受けるようにしましょう。


【Q&A】軽度認知障害(MCI)に関するよくある質問

MCIに関して読者からよく寄せられる質問にお答えします。

Q1. 軽度認知障害(MCI)と「ただのもの忘れ」はどう違うのですか?

A1. 加齢によるもの忘れが「夕食に何を食べたか忘れる」といった体験の一部を忘れるのに対し、MCIでは「食事をしたこと自体を忘れる」など、出来事全体を忘れてしまう傾向があります。また、以前はなかったようなもの忘れが頻繁に起こり、本人や家族が「何かおかしい」と気づく点が大きな違いです。

Q2. MCIになったら、もう元には戻らないのでしょうか?

A2. いいえ、必ずしもそうではありません。MCIの原因によっては、適切な治療や生活習慣の改善によって認知機能が健常な状態に回復する可能性もあります。そのため、早期に原因を特定し、対策を始めることが非常に重要です。

Q3. 家族にMCIの疑いがあります。まず何をすればよいですか?

A3. まずは、記事で紹介したセルフチェックリストを試してみてください。もし当てはまる項目が複数ある場合は、かかりつけ医や、もの忘れ外来、神経内科、精神科などの専門医療機関へ相談することをお勧めします。早期の相談が、その後の進行を防ぐための第一歩となります。

Q4. MCIから認知症への進行を防ぐために、今日からできることはありますか?

A4. はい、今日から始められることはたくさんあります。

  • 食事: 野菜や魚を増やし、塩分や糖分を控える。
  • 運動: 1日30分程度のウォーキングなど、無理のない運動を習慣にする。
  • その他: 十分な睡眠をとる、禁煙・節酒を心がける、趣味や人との交流を楽しむ、1日1〜1.5Lの水分(水やお茶)をこまめに摂る、などが効果的です。

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参考
軽度認知障害(MCI)のセルフチェックシート – 河田病院
【チェックリストあり】軽度認知障害(MCI)とは?症状と予防方法を解説 – みんなの介護