「どうしてズボンの上に下着を履いているの?」
「真冬なのに、なぜ半袖のTシャツを着ようとするの?」
「着替えるのに1時間もかかって、毎朝イライラしてしまう…」

毎日の介護の中で、こうした「着替え」に関するトラブルに限界を感じていませんか?

何度も間違えたり、ボーッと服を見つめたまま動かなかったりする親御さんを見ると、「また認知症が進んでしまったのかも…」と不安になりますよね。

しかし、安心してください。

これは嫌がらせでも、一気に認知症が進行したわけでもありません。
脳の「遂行機能(すいこうきのう)」という、段取りを組み立てる力が低下しているサインなのです。

気仙沼で20年以上介護の現場に立ち、「リコケア コナーズ」で認知症改善をサポートしている私たちが、着替えのトラブルが起きる脳のメカニズムと、無理なく「自分で着替える(自立支援)」に導くプロの環境設定・声かけをお伝えします。


1. なぜ着替えられないの?原因は「前頭葉(段取り力)」の低下

なぜ着替えられないの?原因は「前頭葉(段取り力)」の低下

「服を着る」という行動は、私たちが無意識に行っているだけで、実は脳にとって非常に高度な作業です。

  1. 今の季節や気温を判断する
  2. タンスから適切な服を選ぶ
  3. 服の裏表、前後を確認する
  4. 「まずは下着から」と順番を組み立てる
  5. 手足を通し、ボタンを留める

この「目的のために、順序立てて計画・実行する力」のことを『遂行機能』と呼び、脳の司令塔である「前頭葉(ぜんとうよう)」がその役割を担っています。

認知症によって前頭葉の血流が落ちると、この遂行機能がうまく働きません。

目の前に服を置かれても、「これが服であることは分かるけれど、どういう順番で、どうやって体を入れればいいのか(手順)が分からない」というパニック状態に陥っているのです。

💡 前頭葉の低下が引き起こす、もう一つの深刻な症状

この「前頭葉」の血流低下は、着替えの段取りが分からなくなるだけでなく、感情のブレーキが効かなくなる原因にもなります。

「最近、急に怒りっぽくなった」「財布を盗まれたと疑われる」という場合、同じ前頭葉の機能低下が関係しています。
ご家族の心を救う具体的な対応策は、以下の記事で解説しています。

[「財布を盗んだでしょ!」と責められたら?家族の心を救う『物盗られ妄想』の本当の原因…]


2. 着替えにおける「間違った自立支援」と「過保護ケア」

着替えにおける「間違った自立支援」と「過保護ケア」

前回の記事でもお伝えしましたが、今の介護現場では「間違った自立支援」が横行しています。
着替えの場面では、特に以下の2つに注意が必要です。

💡 あわせて読みたい

「できることは自分でやらせないと…」と、着替えられない親をただ見守っていませんか?
実はその対応、脳に強いストレスを与え、認知症を悪化させる「間違った自立支援」かもしれません。

無理にやらせる前に知っておくべき、本当の自立に導く「4つの基本ケア(水分・栄養・排泄・運動)」については、こちらの記事で詳しく解説しています。

[その「自立支援介護」が認知症を悪化させる?プロが教える本当の改善と…]

① 「自分で着替えてください」と服だけ渡して放置する

段取りが分からない(前頭葉がパニックを起こしている)状態の方に、「リハビリのために自分で着てくださいね」と服の山を渡すのは、自立支援ではありません。

ご本人は混乱し、「着替え=嫌なこと・できないこと」として脳にインプットされてしまいます。
結果として「着替え拒否」や「怒り(BPSD)」を引き起こす原因になります。

② イライラして「全部着せてあげる(過保護)」

毎朝忙しいご家族にとって、着替えを待つのは本当に大変です。
「もう、私がやった方が早い!」と、赤ちゃんのように全て着せてしまいたくなる気持ちは痛いほど分かります。

しかし、手足を通す動作やボタンを留める指先の動きは、脳への素晴らしい刺激です。
全て介助してしまうと、残っていた機能まであっという間に衰え、本当に「寝たきり」へと一直線に向かってしまいます。


3. 【コナーズ流】着替えを「できる!」に変える魔法のサポート

【コナーズ流】着替えを「できる!」に変える魔法のサポート

では、遂行機能が落ちている親御さんに、どうすれば「自分で着替えてもらう(自立)」ことができるのでしょうか?

現場のプロが実践している、脳の機能を補う3つのステップをご紹介します。

① 【環境設定】服は「着る順番」に、「1枚ずつ」渡す

前頭葉の負担を極限まで減らしてあげることが一番のコツです。

服をまとめてドサッと渡すのではなく、「一番下に着る肌着」を一番上にし、着る順番に重ねて置いておきます。

もっと混乱が強い場合は、「まずはこれ(肌着)を着てね」と、1枚ずつ手渡ししてください。
これだけで、脳が「次に何をすればいいか」というエラーを起こさなくなります。

② 【声かけ】指示は短く、「1つの動作」だけを伝える

「パジャマを脱いで、そっちの青いシャツを着てね」という複数の指示(多重課題)は、遂行機能が低下した脳には処理しきれません。

「右腕を袖に通して」「次は左腕ね」「ボタンを下から留めて」など、動作を細かく分解し、1つずつ短い言葉で伝えるのがポイントです。

③ 【土台のケア】朝一番の「水分補給」で脳を起こす

朝起きてすぐは、誰でも脳の血流が低下し、ボーッとしています。
特に認知症の方は「寝起きの脱水」が著しいため、そのまま着替えさせようとしても前頭葉は働きません。

起きたら、まずはコップ1杯の白湯やお水を飲んでもらってください。

これにより脳の覚醒水準がグッと上がり、スムーズに指示が入りやすくなります。

💡 あわせて読みたい

朝一番の水分補給は、脳の覚醒水準を上げるために絶対不可欠です。
しかし、「朝から水を飲みたがらない」「むせてしまう」とお悩みのご家族も多いはずです。

現場のプロが実践している、高齢者が自然と水分を摂りたくなる具体的な工夫については、こちらの記事も参考にしてください。

[気仙沼の冬、親の認知症が悪化?ケアマネ直伝の対策と改善のコツ]


エピローグ:「できない理由」が分かれば、介護はもっとラクになる

「着替えができない」という一つの現象をとっても、決して親御さんが意地悪をしているわけではなく、「脳の機能(遂行機能)がうまく働いていないからだ」と分かれば、ご家族のイライラも少し軽くなるのではないでしょうか。

できないことを責めたり、無理やりやらせたりするのではなく、「脳が処理しやすい環境」を整えてあげること。

それが、その人らしさを守る本当の「自立支援介護」です。


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【この記事を書いた人】 菅原 浩平(すがわら こうへい) リコケア コナーズ共同代表 / ケアマネジャー・介護福祉士

【監修者】 菅原 嘉奈(すがわら かな) リコケア コナーズ共同代表 / 認知症リハビリテーション専門士・ケアマネジャー・介護福祉士