「脳トレをさせているのに認知症が進んだ気がする…」
「嫌がってやってくれない」

そんな悩みを持つご家族は少なくありません。

最初に結論をお伝えすると、脳トレは認知症改善に有効ですが、「選び方」を間違えると効果がないどころか、ストレスや自信喪失により症状が悪化するリスクがあります。

この記事では、認知症リハビリの専門的視点から、「なぜ効かないのか」という理由と、自宅でできる「脳の部位別評価(チェック)」、そして症状にバッチリ合った「おすすめ脳トレ問題集」を解説します。

なぜ「普通の脳トレ」は認知症に効かないのか?

最大の理由は、「衰えている脳の部位」と「脳トレの効果がある部位」がミスマッチを起こしているからです。

認知症と一口に言っても、記憶を司る「海馬」が弱っているのか、思考を司る「前頭葉」が弱っているのかは人によって異なります。

  • 海馬(記憶)が悪いのに、計算(前頭葉)を必死にやらせる
  • 視空間認知(頭頂葉)が悪いのに、図形パズルを無理やりやらせる

これは、足腰を鍛えたい人に腕立て伏せを強要するようなもの。
効果が出ないばかりか、「できない」というストレスが脳を萎縮させ、症状を悪化させてしまうのです。

脳部位

認知症改善のカギは「評価・実践・測定」のサイクル

効果を出すためには、闇雲にドリルを渡すのではなく、以下のサイクルを回す必要があります。
これが認知症リハビリで行う症状改善の鉄則です。

  1. 評価:脳のどこが弱っているかを見極める
  2. トレーニング:その部位に効く適切な脳トレを行う
  3. 測定:効果が出ているか再評価し、内容を調整する

自宅でできる!脳の部位別「簡易評価テスト」

ここが最も重要です。まずはご本人の脳のどこにアプローチすべきか、簡単なテストでチェックしてみましょう。

※これは診断ではなく、あくまでトレーニング選定のための目安です。

1. 海馬(短期記憶)のチェック

直近の記憶を保持できているかを確認します。

  • 方法(即時記憶検査):「今から3つの言葉を言います。すぐに繰り返してください」と伝え、『さくら・ねこ・電車』と言ってもらいます。
  • 判定:1つ以上間違えたり、言えなかったりする場合は、海馬の機能低下の可能性があります。
情報入力と選択をする海馬
【海馬の機能】
即時記憶(直前の記憶)、情報選択、空間把握

海馬は情報の記憶と空間認知の機能があります。
海馬が機能低下すると
・すぐ忘れる
・道に迷う
などの症状が現れます。さらには
・何度も同じことを聞いてくる
・行き慣れたはずの場所を忘れる
・道に迷う
などが認知症状出てきます。

2. 前頭葉(意欲・集中・思考)のチェック

注意を維持し、コントロールできるかを確認します。

  • 方法(五十音反応検査):「あ・い・う・え・お…」とランダムに読み上げます。「『あ』が聞こえたら手を叩いてください」と指示します。(例:い・き・あ・う・し・あ・く…)
  • 判定:叩き間違えや反応遅れがある場合、前頭葉(前頭前野)の機能低下の可能性があります。
人間を人間らしくさせる前頭前野

【前頭前野の機能】
思考、判断、記憶の想起、感情抑制、二重課題

前頭前野は「人間を人間らしくする」働きをします。
前頭前野が機能低下すると、
・記憶の想起低下(思い出せない)
・空気の読めない言動
・落ち着きがない
・やる気がなくなる
など、人と接するような日常生活に支障をきたします。

3. 側頭葉(言語・物品理解)のチェック

物や言葉の意味を理解できているかを確認します。

  • 方法(物品認知検査):ハサミ、コップ、時計など身近なものを9つ並べ(実物でも写真でも可)、ランダムに指差して「これは何ですか?」と聞きます。
  • 判定:名前が出てこない、間違える場合は、側頭葉の機能低下の可能性があります。
言語を理解し物を認識 側頭葉

【側頭葉の機能】
言語理解、言語表出、文字理解、物品認知、色彩認知

側頭葉は言語理解と資格認知の中枢です。
言語の機能が低下すると
・言葉を理解できない
・話せない
・字が読めない
などの症状が見られます。
視覚の認知機能低下は
・見た物が何かわからない
・色が分からない
などが起こります。

4. 頭頂葉(空間認識・計算)のチェック

空間の中での物の位置や形を把握できているかを確認します。

  • 方法(立体認識検査):積み木が積まれたイラストを見せ、「積み木は全部で何個ありますか?」と数えてもらいます(隠れている部分も含める)。
  • 判定:数え間違える場合、頭頂葉の機能低下の可能性があります。
感覚を受け取り、理解する頭頂葉

【頭頂葉の機能】
感覚需要と認知、視空間認知、構成機能

頭頂葉は5感(視覚、味覚、触覚、嗅覚、聴覚)を受け取る機能と、空間の奥行や構成する機能があります。
頭頂葉の機能が低下すると、体に触られたり傷がついても気づかなかったり、奥行きがわからずコップを置いたり取ったりできないなどの症状が現れます。

【症状・部位別】認知症改善におすすめの脳トレ・問題集

評価で「弱っている部分」がわかったら、そこをピンポイントで刺激する脳トレを選びましょう。

① 前頭葉タイプ(やる気がない、計画できない)におすすめ

前頭葉は脳の司令塔です。「ワーキングメモリ(作業記憶)」を鍛えるのが有効です。

おすすめの脳トレ具体的な内容・効果
計算ドリル1桁の足し算や100マス計算。速さを意識することで前頭葉の血流が増加します。
音読新聞や小説を声に出して読む。目と口と耳を同時に使うため、脳が強く活性化します。
デュアルタスク「足踏みしながらしりとり」「洗濯物を畳みながら歌う」など、2つのことを同時に行います。

② 側頭葉タイプ(言葉が出にくい、物の名前を忘れる)におすすめ

言葉や音、記憶の意味づけに関わるエリアです。

おすすめの脳トレ具体的な内容・効果
音楽鑑賞・歌唱好きな音楽を聴く、歌う。歌詞を思い出す作業は側頭葉を強く刺激します。
書き取り(聴写)短い文章(昔話など)を読み上げ、それを書き取ってもらいます。言語理解(左側頭葉)に効きます。
写真・名前当て野菜や道具の写真を見て名前を答える。視覚情報と言語を結びつけます。

③ 海馬タイプ(直前のことを忘れる)におすすめ

記憶の入り口です。新しい情報を入れて出す練習が必要です。

おすすめの脳トレ具体的な内容・効果
写真記憶写真を15秒見て隠し、「何が写っていましたか?」と答える。インプットと想起の訓練です。
語呂合わせ歴史の年号や電話番号などを、リズムの良い語呂合わせで覚えます。
有酸素運動実は「歩くこと」が海馬の神経を増やすのに最も効果的と言われています。散歩を日課にしましょう。

④ 頭頂葉・後頭葉タイプ(迷子になる、服が着られない)におすすめ

視覚情報や空間を捉える力を鍛えます。

おすすめの脳トレ具体的な内容・効果
積み木・パズルジグソーパズルや積み木。完成図をイメージしながら手を動かすことで空間認識力を養います。
図形模写見本と同じ図形を描き写す。三角や星型など簡単なものから始めます。
指体操指は「第2の脳」。左右で違う指の動き(キツネと鉄砲など)をすることは頭頂葉に非常に有効です。

効果を最大化させるための「家族の関わり方」3つのポイント

どんなに良い問題集を買っても、関わり方を間違えると台無しになります。

  1. 「テスト」ではなく「楽しみ」として
    「これやってみて」と突き放すのではなく、「お母さん、一緒にこれやってみない?私もボケ防止にやりたいから」と、コミュニケーションの一環として誘ってください。
  2. 間違っても訂正しない
    脳トレの目的は「正解すること」ではなく「脳を使うこと」です。
    間違いを指摘されるとプライドが傷つき、二度とやってくれなくなります。
    「すごいね!」「頑張ったね!」とプロセスを褒めましょう。
  3. 定期的に「再評価」する
    1ヶ月ほど続けたら、再度上記の「簡易評価テスト」を行ってみてください。
    変化が見えれば継続、効果が薄ければ別の脳トレに切り替える。
    この柔軟性が改善への近道です。

よくあるご質問(Q&A)

Q1. 毎日やらないと効果はありませんか?嫌がる日もあります。

A1. 無理に毎日やる必要はありません。 嫌がっているのに無理強いすることによるストレスの方が、脳にとって悪影響です。「調子が良い日に、遊び感覚でやる」だけで十分です。週に2〜3回でも継続することが大切ですので、ご本人の気分を優先してください。

Q2. すでに認知症が進んで会話も難しいのですが、脳トレはできますか?

A2. はい、重度の方でもできる脳トレはあります。 会話が難しい場合は、言葉を使わない「音楽鑑賞」や「指体操」、または「ハンドマッサージ」などの皮膚刺激も立派な脳トレになります。記事内で紹介した「評価」を行い、現在残っている機能を見つけて、そこを活かすアプローチを選んでください。

Q3. 病院のリハビリと自宅の脳トレ、どっちが大事ですか?

A3. どちらも大切ですが、頻度の多い「自宅」がカギを握ります。 病院のリハビリは週に数回ですが、自宅での時間は毎日続きます。自宅で適切な脳トレやコミュニケーションを取り入れることで、病院でのリハビリ効果を維持・向上させる土台が作られます。

まとめ:適切な「評価」こそが改善への第一歩

認知症の脳トレで重要なのは、以下の3点です。

  • 「脳トレなら何でもいい」は間違い。部位に合ったものを選ぶ。
  • まずは自宅でできる「簡易評価」で、弱っている部位を特定する。
  • 「評価→トレーニング→測定」のサイクルを回す。

ご本人の状態に合った「オーダーメイドの脳トレ」を取り入れることで、認知機能の維持・改善は十分に期待できます。まずは今日、簡単なチェックから始めてみませんか?


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参考文献・参考資料