はじめに
「最近、動作が遅くなった気がする」
「手が震えるようになった」
もしかしたら、それはパーキンソン病の初期症状かもしれません。
パーキンソン病は、脳の神経細胞が徐々に壊れていくことで、体の動きに影響が出る病気です。
日本のパーキンソン病患者数は、厚生労働省の調査によると、2020年現在で 約29万人 。
欧米では男性に多いのですが、日本では女性に多いです。
高齢になるほど発症率が高まりますが、若い人にも発症するケースがあります。
従来の治療法は、症状の緩和を目的としたものが中心でしたが、近年、 パーキンソン病を治す可能性 を秘めた革新的な治療法の研究が進められています。
この記事では、パーキンソン病の最新治療法と、 治癒の可能性 について詳しく解説していきます。
パーキンソン病の症状
パーキンソン病は、脳内のドーパミンという物質の減少によって引き起こされます。
ドーパミンは、運動の調節や意欲、快感などに重要な役割を果たしており、その減少は様々な症状を引き起こします。

運動症状
パーキンソン病の代表的な症状として、
- 振戦(ふるえ)
- 固縮(筋肉のこわばり)
- 無動(動作が小さくなる・遅くなる)
- 姿勢反射障害(姿勢を保てず、バランスを崩しやすくなる)
の4つが挙げられます。
症状の現れ方には個人差がありますが、軽度~重度の目安は、次の様になっています。
- 片側の手足に振戦や固縮が起こる(介助はほとんど必要ない)
- 両方の手足に4つの症状が見られ、姿勢の変化が見て分かりやすくなる。
- 歩行障害が強くなり、方向転換時などにふらつきやすい(一部介助が必要)
- 立ち座りや歩行が困難になる(多くの場面で介助を要する)
- 自立した動作はほとんど困難(車いす介助や寝たきり)
※1が軽度、5にいくほど重度となりますが、全ての人が1→5の経過を辿るとは限りません。
非運動症状
ドーパミンは運動調節だけでなく、意欲や快感、認知機能などにも関わっているため、ドーパミン減少によって意欲の低下や思考力の低下が起こり、うつ症状や認知機能障害につながる可能性があります。
基本的にパーキンソン病は認知機能の低下は認められませんが、後に認知機能低下を起こす”認知症を伴うパーキンソン病”と診断される場合もあります。
また、パーキンソン病に伴う脳の変化や、治療薬の副作用、生活習慣の変化なども非運動症状に影響を与えると考えられています。
主な非運動症状は以下の通りです。
- 精神症状(抑うつ、無気力・無関心、不安、パニック発作など)
- 自律神経障害(便秘、頻尿などの排尿障害、低血圧など)
- 感覚障害(嗅覚障害、痛み)
- 睡眠障害(不眠、日中の眠気、レム睡眠行動障害※)
- 認知機能障害(記憶力・判断力低下など)
一部の睡眠障害などは、薬の副作用で起こることもあるため、医師への相談が大切です。
※レム睡眠行動障害:
レム睡眠中、大声を挙げたり、手足を大きく動かしたりする症状です。
従来のパーキンソン病の治療法
パーキンソン病の治療法は、大きく分けて薬物療法、手術療法、リハビリテーションに分けられます。
パーキンソン病は、今のところ完全に治療する方法はなく、症状を緩和させるための対症療法が主な治療法になっています。

薬物療法
パーキンソン病の薬物療法は、不足しているドーパミンを補ったり、ドーパミンの働きを助けることで症状を改善することを目的としています。
主な薬の種類
- レボドパ製剤: 脳内でドーパミンに変換される薬です。運動症状の改善に効果があります。
- 例:L-ドパ、メネシット
- ドーパミンアゴニスト: ドーパミンと似た働きをする薬です。レボドパ製剤の効果が不十分な場合や、レボドパ製剤の副作用を軽減するために併用されることがあります。
- 例:プラミペキソール、ロピニロール
- MAO-B阻害薬: ドーパミンの分解を抑え、効果を持続させる薬です。
- 例:セレギリン、ラサギリン
- COMT阻害薬: レボドパの作用時間を延長させる薬です。レボドパ製剤と併用することが多いです。
- 例:エンタカポン、トルカポン
- 抗コリン薬: 筋肉の緊張を和らげ、振戦(ふるえ)を抑制する効果があります。
- 例:トリヘキシフェニジル、ビペリデン
運動合併症について
レボドパ製剤は効果が高い薬ですが、長期間服用していると効果が持続しにくくなったり、副作用が出やすくなることがあります。
これを 運動合併症 といいます。
運動合併症には、主に以下の2つの症状があります。
- ウェアリングオフ現象:
薬の効果が切れる時間が早くなり、次の服用時間まで症状が再発してしまう現象です。 - ジスキネジア:
薬の作用が強すぎるために、体が自分の意思とは関係なく動いてしまう不随意運動です。
これらの運動合併症は、パーキンソン病の進行に伴い起こりやすくなります。 運動合併症の出現には、服薬期間の長さやレボドパの総服用量などが関係していると考えられています。
運動合併症が出現した場合は、薬の種類や服用量、服用間隔などを調整することで症状をコントロールします。
- レボドパ製剤の徐放性製剤(薬の有効成分がゆっくり出てくるタイプ)を使用する
- ドーパミンアゴニストを併用する
- COMT阻害薬を併用する
- 薬の服用回数や服用量を調整する
- 脳深部刺激療法(DBS)などの手術療法を検討する
運動合併症の治療は、患者さんの状態に合わせて個別に調整していく必要があります。
主治医とよく相談し、最適な治療法を選択することが大切です。
【参考資料】
運動合併症とは|パーキンソン病の基礎知識 – 協和キリン
運動合併症と対処法 – パーキンソンスマイル.net
認知症とパーキンソン病治療薬の関係
認知症を伴う場合、パーキンソン病治療薬の服用には注意が必要です。
特に、症状の似ているレビー小体型認知症では、パーキンソン病の治療薬によって幻覚や妄想、せん妄などの精神症状が悪化する可能性があります。
これらの薬剤を使用する際は、認知機能や精神症状への影響を注意深く観察し、必要があれば薬の種類や量を調整する必要があります。
薬を飲み始めた前後の症状の変化、その後の経過などを医師に報告し、適切な処方役を検討していきましょう。
脳深部刺激療法(DBS)
脳深部刺激療法(DBS)は、脳の特定の部位に電極を埋め込み、電気刺激を与えることで症状を改善する手術療法です。
仕組みとしては、心臓のペースメーカーと似ています。
薬物療法の効果が不十分な場合や、薬の副作用が強い場合に有効、というメリットがありますが、体への負担が大きい、感染症などのリスク、治療費が高額、などのデメリットもあります。
リハビリテーション
リハビリテーションを通して、運動機能の維持・改善、日常生活動作の訓練、コミュニケーション能力の向上などを目指します。
具体的には、以下の内容を、その人の状態に合わせて実施します。
- 理学療法:
- 関節の動きをスムーズにするためのストレッチ
- 筋力強化のための運動
- バランス能力を高めるための訓練
- 歩行訓練など
- 作業療法:
- 日常生活動作(食事、着替え、トイレなど)の訓練
- 家事や趣味などの活動
- 福祉用具の活用指導など
- 言語聴覚療法:
- 発声や発音の練習
- 言葉の理解やコミュニケーション能力の向上
- 嚥下(飲み込み)機能の改善など
リハビリテーションによって、介助を受けて5m歩くのがやっとだった人が、歩行器を使えば自力で20m歩けるほどにまで症状が改善した事例があります。
早期のリハビリ開始、専門家の指導の下、継続的・積極的に行うことで、症状改善の可能性が高まります。
パーキンソン病の治癒の可能性
これまで、パーキンソン病は完治が難しい病気だと考えられてきました。
しかし、近年、医療技術は目覚ましく進歩しており、パーキンソン病を治せる日がくるかもしれない という希望が見えてきています。
一体どんな研究が進んでいるのでしょうか?
現在、以下のような研究が注目されています。

レビー小体を作らない
パーキンソン病の原因物質の一つとして、α-シヌクレインというタンパク質が挙げられます。
α-シヌクレインは、本来は脳の働きを助ける役割をしていますが、パーキンソン病の患者さんの脳では、これが異常に凝集(ぎょうしゅう:くっつき合ってかたまること)してしまうのです。
この、α-シヌクレインが凝集したものを、”レビー小体”と言います。
お気付きかもしれませんが、レビー小体型認知症の”レビー小体”と同じものです。
パーキンソン病も、レビー小体型認知症も、このレビー小体が脳内に蓄積することで発症すると考えられています。
厳密には、脳幹という部位を中心に蓄積するとパーキンソン病を発症し、大脳皮質を中心に蓄積するとレビー小体型認知症を発症します。
認知症を伴うパーキンソン病の場合、①脳幹に蓄積⇒②大脳皮質に蓄積が広がる、という経緯を辿っているということです。
最新の研究では、このα-シヌクレインの凝集を防ぐ、つまり、レビー小体を作らないように、薬や治療法が開発されています。
ミトコンドリアの活性化
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを作り出す、いわば発電所のようなものです。
パーキンソン病になると、このミトコンドリアの働きが弱くなってしまうことが知られています。
そこで、ミトコンドリアの働きを良くすることで、パーキンソン病の進行を抑えたり、症状を改善したりできるのではないかと期待されています。
具体的には、以下の方法が研究されています。
1. 薬剤によるミトコンドリア機能の活性化
- ミトコンドリアの呼吸鎖を活性化する薬剤:
ミトコンドリアは、酸素を使ってエネルギーを産生する「呼吸鎖」というシステムを持っていますが、この呼吸鎖の働きを活性化する薬剤が開発されています。- 例:コエンザイムQ10、ビタミンB3
- ミトコンドリアのストレス応答を活性化する薬剤:
ミトコンドリアは、ストレスにさらされると、それを解消するため活性化します。このストレス応答を活性化する薬剤が開発されています。- 例:レスベラトロール、メトホルミン
- オートファジーを活性化する薬剤:
オートファジーとは、細胞内の古くなったタンパク質やミトコンドリアを分解するシステムです。オートファジーを活性化することで、機能が低下したミトコンドリアを排除し、新しいミトコンドリアを作り出すよう促すことができます。- 例:ラパマイシン、ニクロサミド
2. 遺伝子治療によるミトコンドリア機能の改善
- ミトコンドリアDNAの修復:
ミトコンドリアは、独自のDNAを持っています。このミトコンドリアDNAに異常があると、ミトコンドリアの機能が低下します。遺伝子治療によって、ミトコンドリアDNAの異常を修復する方法が研究されています。 - ミトコンドリア関連遺伝子の導入:
ミトコンドリアの機能に関わる遺伝子を導入することで、ミトコンドリアの機能を改善する方法が研究されています。
3. ライフスタイル改善によるミトコンドリア機能の向上
- 運動:
適度な運動は、ミトコンドリアの機能を向上させる効果があります。 - 食事:
バランスの取れた食事を摂ることは、ミトコンドリアの機能維持に重要です。特に、抗酸化作用のある食品(野菜、果物など)を積極的に摂取することが推奨されます。 - 睡眠:
睡眠不足は、ミトコンドリアの機能を低下させるため、質の高い睡眠を確保することが大切です。
脳を修理する
パーキンソン病は、脳の神経細胞が壊れてしまうことで起こる病気です。
では、壊れてしまった神経細胞を、もしも新しい細胞で置き換えられたら…?
そう、 パーキンソン病を根本的に治せる かもしれないのです。
その可能性に注目し、進められている研究が、 神経細胞の再生 です。
神経細胞の再生には、主に2つの方法が考えられています。
- iPS細胞を使った再生医療:
iPS細胞は、私たちの体のどんな細胞にもなれる、すごい能力を持った細胞です。
このiPS細胞から、パーキンソン病で失われてしまう「ドーパミン神経細胞」を作り出し、それを脳に移植する治療法が研究されています。
要は、壊れた細胞を新しい細胞と交換する、”修理”のようなイメージですね。 - 神経細胞の成長を促す薬
私たちの体には、もともと神経細胞を新しく作る力(再生能力)が備わっています。
パーキンソン病では、この再生能力がうまく働かなくなってしまうのです。
そこで、薬を使って神経細胞の再生能力を活性化し、新しい神経細胞を増やす治療法が研究されています。
今までの治療では、パーキンソン病の進行を遅らせたり、症状を和らげたりすることしかできませんでした。
しかし、神経細胞の再生が実現すれば、パーキンソン病の患者さんが、薬に頼らず根本的な治療をし、以前と同じような生活を送れるようになるかもしれないのです。
認知症を伴うパーキンソン病へのアプローチ
パーキンソン病の患者さんの中には、認知症を併発する方がいます。
先述の通り、パーキンソン病も、認知症を伴うパーキンソン病やレビー小体型認知症も、α-シヌクレインが凝集することでできる”レビー小体”が原因と考えられています。
であれば、α-シヌクレインの凝集を抑制する薬が開発できれば、これら全てを治療することができるかもしれません。
また、近年では、レビー小体は便秘など、腸の異常から発生するという仮説が注目されています。
パーキンソン病やレビー小体型認知症の方には便秘傾向の方が多く、初期症状の一つと考えられてきましたが、もしかすると、”順番が逆”だった可能性があるのです。
ということは、便秘の解消が、そのままパーキンソン病などの予防・改善につながるかもしれません。
便秘は、アルツハイマー病などによる認知症にも関連があると言われています。
便秘の解消法には、
- 適度な運動
- 食事療法
- 水分補給
- 下剤などの薬剤治療
がありますが、これがそのまま認知症やパーキンソン病の予防・改善につながるとしたら、試してみる価値はありますよね。
まとめ
パーキンソン病は、進行性の病気ですが、近年、 治癒の可能性 を秘めた様々な治療法の研究開発が進められています。
最新の情報に目を向け、積極的に治療に取り組むことで、 パーキンソン病と共に生きる 患者さんとその家族が、より良い生活を送れるようになることを願っています。
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