はじめに
パーキンソン病特有の、手足の震えや動作の緩慢などの運動障害を、パーキンソン症状、またはパーキンソニズムと言います。
”特有”と言いましたが、パーキンソン症状はレビー小体型認知症でも見られます。
パーキンソン病とレビー小体型認知症は、どちらも進行性の神経変性疾患であり、症状が似ているため混同されやすい特徴があります。
しかし、原因や経過、治療法などが異なるため、正しい理解と早期発見が重要です。
この記事では、パーキンソン病とレビー小体型認知症の違いを分かりやすく解説し、早期発見・早期治療によって症状の改善を目指せる可能性についてお伝えします。
パーキンソン病とレビー小体型認知症:基本的な違い

パーキンソン病とレビー小体型認知症は、どちらも脳内の神経細胞に異常が起こることで発症しますが、その原因となる物質が蓄積する部位、初期症状に違いがあります。
原因の違いが症状の違いに
パーキンソン病とレビー小体型認知症では、どちらもレビー小体が発症に関わっていると考えられています。
しかし、レビー小体が蓄積する部位が異なることで、初期症状にも違いが現れるのです。
レビー小体の主成分は「α-シヌクレイン」というタンパク質です。
α-シヌクレインは本来、神経細胞の情報伝達などに重要な役割を果たしていますが、何らかの原因で異常な形に変化し、凝集してレビー小体を形成します。
レビー小体は脳の様々な部位に蓄積しますが、特に大脳皮質や脳幹といった部位に多く見られます。
大脳皮質にレビー小体が蓄積すると、認知機能の低下や幻視などが現れます。
脳幹にレビー小体が蓄積すると、パーキンソン症状や自律神経症状、睡眠障害などが現れます。
平たく言うと、認知機能の低下が先に起これば、レビー小体が大脳皮質に蓄積しているということであり、レビー小体型認知症と診断されます。
パーキンソン症状が先に見られた場合、レビー小体が脳幹に蓄積したということであり、パーキンソン病と診断されるのです。
※医師の判断によります。
他の認知症と混合して発症することも
パーキンソン病の方は、基本的に認知機能の低下は見られませんが、後になって低下が見られる場合があり、”認知症を伴うパーキンソン病”という診断に代わります。
この場合、大脳皮質と脳幹の両方にレビー小体の蓄積が見られます。
認知機能の低下がある場合、レビー小体に加えてアミロイドβ(アルツハイマー病の原因)の蓄積が見られると言われていますが、その関係は定かではありません。
しかし、タレントで漫画家の蛭子能収さんは、レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の混合型であるとの診断を受けています。
両者は症状が似ている部分もあり、診断基準が確立しつつある現在もなお、誤診が多いと言われています。
パーキンソン症状と認知機能の低下が同時に見られる場合、レビー小体型認知症、認知症を伴うパーキンソン病、アルツハイマー型認知症との混合型の鑑別がいかにして行われるかは、難しいところです。
見分け方のポイント
症状の出現時期と経過
パーキンソン病とレビー小体型認知症を見分けるポイントの一つに、症状の出現時期と経過があります。
先述の通りですが、認知症の症状が先に現れ、パーキンソン症状が後から出現する場合は、レビー小体型認知症の可能性が高いです。
ただし、パーキンソン症状も必ず現れるわけではありません。
逆に、運動症状が先に現れ、認知症がない、あるいは後から出現する場合は、パーキンソン病の可能性が高いです。
画像検査
パーキンソン病とレビー小体型認知症の鑑別には、画像検査が使われることがあります。
画像検査の種類として、脳の血流や神経細胞の働きを調べるSPECT検査や、ドーパミン神経の働きを調べるDATスキャンなどが用いられます。
また、MIBG心筋シンチグラフィは、レビー小体型認知症で異常が見られることが多い検査です。
これらの検査結果を総合的に判断することで、より正確な診断が可能となります。
※100%確実な診断ができるわけではありません。
なので、運動障害、幻視、認知機能の低下など、気になる症状が現れた場合に神経内科などを受診すると、こういった検査を行う場合があります。
早期発見の重要性
早期治療による症状の改善
パーキンソン病もレビー小体型認知症も、早期に発見し適切な治療を開始することで、症状の改善、進行の抑制、QOL(生活の質)の維持が期待できます。
薬物療法では、診断に応じて、処方される薬が違います。
パーキンソン病にはドーパミン製剤、レビー小体型認知症には抗認知症薬などが用いられますが、発見が遅れると、どの症状が最初かわからなくなる場合があり、適切な処方ができません。
処方を間違えると、症状が悪化する可能性があります。
なおかつ、レビー小体型認知症では、進行すると薬剤過敏症が発症する(少量の薬でも効きすぎる)可能性があるので、病気の早期発見は大変重要なのです。
介護負担の軽減
早期発見・早期治療によって、パーキンソン病とレビー小体型認知症の症状を軽減できる可能性が高まります。
運動症状が現れるということは、介助が必要な場面が少なからず出てくるでしょう。
足が思うように動かない方を歩行介助する場合、介助者もろとも転倒する危険も高まります。
認知症状もあると、程度によっては家族の心身をどれほど削ってしまうのか、想像に難くありません。
ご本人、ご家族とも共倒れになる前に、少しでも早く対策をうてるよう備える必要があります。
それぞれの治療法

薬物療法
パーキンソン病の薬物療法では、ドーパミン製剤が中心となります。
レビー小体型認知症では、抗認知症薬やパーキンソン症状を改善する薬剤が用いられます。
しかし、それぞれの疾患に適した薬剤を選択し、適切な用量で処方することが非常に重要です。誤った薬剤の選択や不適切な用量は、効果が不十分であったり、副作用のリスクを高めたりする可能性があります。
- パーキンソン病における薬物療法:
ドーパミン製剤が中心となります。
ドーパミン製剤は、脳内で不足しているドーパミンを補うことで、運動症状を改善する効果があり、レボドパ、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬などがあります。 - レビー小体型認知症における薬物療法:
抗認知症薬やパーキンソン症状を改善する薬剤が用いられます。
抗認知症薬として、アルツハイマー型認知症にも使われるアリセプトがあります。
パーキンソン症状を改善する薬剤としては、ドーパミン製剤などが用いられます。
レビー小体型認知症では、抗精神病薬に対して強い過敏性を示す場合があります。
抗精神病薬を服用すると、パーキンソン症状が悪化したり、意識障害や自律神経症状が現れたりする可能性があります。
そのため、レビー小体型認知症の処方は慎重に検討しなければなりません。
また、主な副作用としては、吐き気、嘔吐、便秘、眠気、幻覚、妄想などがあります。
副作用が現れた場合は、医師に相談し、薬剤の種類や用量を調整する必要があります。
リハビリテーション
パーキンソン病とレビー小体型認知症のリハビリテーションでは、理学療法、作業療法、言語聴覚療法などを行います。
- 歩行障害の改善:
固縮や姿勢反射障害による歩行障害に対して、歩行訓練やバランス訓練を行うことで、歩行速度や歩行距離の改善、転倒リスクの軽減などが期待できます。
例えば、歩幅を大きくする練習や、方向転換の練習などを繰り返すことで、スムーズな歩行を獲得できるよう支援します。 - 姿勢の改善:
前かがみの姿勢になりやすいパーキンソン病患者さんに対して、姿勢を正すための筋力トレーニングやストレッチを行うことで、姿勢の改善や呼吸機能の維持などが期待できます。 - 手の動きの改善:
手指の震えや動きの緩慢さに対して、手指の運動訓練や作業療法を行うことで、食事や着替えなどの日常生活動作の改善が期待できます。
ボタンかけや箸使いの練習など、日常生活で必要な動作を繰り返し練習することで、自立度を高めることができます。 - 発声の改善:
声が小さくなったり、滑舌が悪くなったりする症状に対して、発声練習や呼吸訓練を行うことで、コミュニケーション能力の維持・向上が期待できます。
これらのリハビリテーションは、パーキンソン病の進行段階や個々の症状に合わせて、適切なプログラムを作成することが重要です。
また、認知機能の維持・向上を目的とした訓練もあり、認知症の症状の改善はもちろん、パーキンソン病の患者さんが、後に認知症を合併しないよう、予防目的で行うこともおすすめです。
生活習慣の改善
パーキンソン病とレビー小体型認知症の患者さんにとって、生活習慣の改善も重要です。
栄養バランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠などを心がけることで、症状の進行を抑制し、QOL(生活の質)を維持することができます。
また、レビー小体型認知症の初期症状として便秘がありますが、近年、便秘がレビー小体発生の原因になっているという仮説が注目されています。
便秘はもともと認知症の原因としても有力視されているため、発症・悪化予防のためにも便秘改善は必須であるかもしれません。
そこでおすすめしたいのが、水分補給です。
十分な水分補給によって、便秘改善、血流改善、食欲増進など様々な効果が期待できます。
高齢になるほど、水分を摂りたがらない傾向があります。
ちゃんと飲んでいるつもりでも、計測してみると、1日の必要量に届いていない方が多いのです。
摂取量の目安としては、体重×30ml。
体重50kgの方であれば、1日1.5Lが推奨量となります。
いきなり推奨量まで増やすのはハードルが高いので、数か月かけて目標に達するつもりで、少しずつ摂取量を増やしていくと良いでしょう。
ただし、持病などの関係で水分制限がある場合は、それに従ってください。
最新治療の動向
パーキンソン病とレビー小体型認知症の治療法は、近年目覚ましい進歩を遂げています。
ここでは、最新の治療の動向について、より深く掘り下げて解説していきます。
遺伝子治療
遺伝子治療は、異常な遺伝子を正常な遺伝子に置き換えたり、遺伝子の働きを調節したりすることで、病気の根本的な治療を目指す方法です。
パーキンソン病においては、ドーパミン産生に関わる遺伝子を導入することで、ドーパミン神経細胞の機能を回復させる試みが行われています。
また、レビー小体型認知症においては、α-シヌクレインの凝集を抑制する遺伝子治療の研究が進められています。
遺伝子治療は、まだ研究段階ではありますが、将来的にはパーキンソン病とレビー小体型認知症の根治治療につながる可能性を秘めていると言われています。
細胞移植
細胞移植は、損傷した神経細胞を補充するために、健康な神経細胞を移植する方法です。
パーキンソン病においては、ドーパミン産生細胞を移植することで、ドーパミン不足を解消する試みが行われています。
細胞移植は、倫理的な問題や拒絶反応などの課題もありますが、今後の研究の進展が期待されます。
脳深部刺激療法(DBS)
脳深部刺激療法(DBS)は、脳の特定の部位に電極を埋め込み、電気刺激を与えることで症状を改善する方法です。
パーキンソン病の治療においては、DBSはすでに確立された治療法となっています。
DBSは、薬物療法で効果が不十分な場合や、薬剤の副作用が強い場合に有効な治療法です。
レビー小体型認知症においても、DBSの有効性が検討されています。
レビー小体除去薬の開発
レビー小体型認知症の治療薬として、レビー小体除去薬の開発が精力的に進められています。
レビー小体除去薬は、脳内に蓄積したレビー小体を除去することで、症状の改善を図る薬剤です。
アルツハイマー病で言うところ、レカネマブやドナネマブに相当します
いくつかのレビー小体除去薬が臨床試験段階に進んでおり、今後の成果が期待されます。
ただし、処方を受ける際の費用や副作用にも注目したいところです。
参考情報
名古屋大学研究成果情報 https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/08/post-702.html
量子科学技術研究開発機構プレスリリース https://www.qst.go.jp/site/press/20240606-1.html
科学技術振興機構(JST) https://www.jst.go.jp/pr/announce/20240606/index.html
まとめ
パーキンソン病とレビー小体型認知症は、どちらも根本的な原因は同じレビー小体であり、脳の神経細胞の異常によって起こる病気ですが、症状、経過が異なります。
パーキンソン病は指定難病であり、レビー小体型認知症は近年その患者数を急激に伸ばしており、どちらも日常生活に大きな支障をもたらす病気です。
早期発見・早期治療が必須となりますので、自身やご家族に気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
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