はじめに

近年、「レビー小体型認知症」という名前を耳にする機会が増えました。

タレントの蛭子能収さんや、ハリウッド俳優のロビン・ウィリアムズさんが公表したことで広く知られるようになりましたが、その実態やアルツハイマー型認知症との違いまで正しく理解している方はまだ多くありません。

「急に人が変わったようになった」
「いないはずのものが見えている」

もしご家族にこのような症状がある場合、それはレビー小体型認知症かもしれません。

本記事では、現役のケアマネジャー・介護福祉士の視点から、レビー小体型認知症の特徴、原因、最新の診断基準、そして家族ができる対応法について分かりやすく解説します。

1. レビー小体型認知症とは?患者数急増の背景

レビー小体型認知症(DLB)は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症と並ぶ「三大認知症」の一つです。

現在、アルツハイマー型に次いで2番目に多い認知症と言われており、認知症全体の約20%(推計)を占めるとされています。

なぜ急に患者数が増えたのか?

かつての統計(2013年頃)では、レビー小体型は数%程度とされていました。
しかし、近年の推計で約20%と言われるようになったのには、主に2つの理由があります。

  1. 診断技術の向上: 以前はアルツハイマー型やパーキンソン病と誤診されていたケースが、医学の進歩により正しく診断されるようになった。
  2. 認知度の向上: 医師だけでなく、家族や介護職の間でも特徴的な症状(幻視など)が知られるようになり、早期受診につながっている。

つまり、病気そのものが爆発的に流行しているというよりは、「隠れていた患者さんが正しく見つけられるようになった」と考えるのが自然です。

2. 【症状】レビー小体型認知症の4大特徴

レビー小体型認知症の症状
・認知機能障害、変動
・幻視
・パーキンソン症状
・薬剤過敏症

レビー小体型認知症は、記憶障害(物忘れ)よりも先に、特徴的な症状が現れることが多いのがポイントです。

① 具体的でリアルな「幻視」

「部屋に子供がいる」「布団の上に虫がたくさんいる」など、実際には存在しないものが、ありありと見える症状です。

重要なのは、本人には「はっきりと見えている」ということです。
「誰もいないよ」と否定されると、本人は混乱し、恐怖や怒りを感じてしまいます。

② 日内変動(認知機能の変動)

頭がはっきりしている時と、ぼんやりして話が通じない時の差が激しいのが特徴です。

  • 調子が良い時: 普段通りに会話ができ、認知症に見えない。
  • 調子が悪い時: 1日中ぼーっとしていたり、反応が極端に鈍くなる。

この「波」があるため、周囲からは「わざとやっているのでは?」「まだ大丈夫」と誤解されやすく、発見が遅れる原因にもなります。

③ パーキンソン症状

手の震え、筋肉のこわばり、動作が遅くなる、小股で歩く、転びやすくなるといった運動機能の障害です。
パーキンソン病と非常に似た症状が現れます。

④ レム睡眠行動異常症

睡眠中に大声で寝言を言ったり、暴れたりする症状です。
夢の内容(何かに追いかけられるなど)に合わせて体が動いてしまうもので、認知症発症の数年前から見られる「予兆」であることも多いです。


【その他の注意すべき初期症状】

  • 薬剤過敏性: 風邪薬や抗精神病薬などで、急激に意識障害や体の硬直などの副作用が出やすい。
  • 自律神経症状: 頑固な便秘、立ちくらみ、頻尿、多量の発汗など。
  • 嗅覚障害: においの感じ方が鈍くなる。
  • うつ症状: 気分が落ち込む、意欲がわかない。

3. 原因とメカニズム:便秘がサイン?

便秘が原因

レビー小体の蓄積

脳の神経細胞に「α-シヌクレイン」というタンパク質が異常に蓄積し、「レビー小体」という塊を作ることが原因です。

  • 大脳皮質にたまると: 認知機能障害、幻視
  • 脳幹にたまると: パーキンソン症状、自律神経症状

最新説:腸から脳へ?

近年、「レビー小体型認知症は腸から始まる」という仮説が注目されています。 腸の神経系にできたレビー小体が、迷走神経を伝って脳へ到達するという説です。この説を裏付けるように、多くの患者さんが発症の何年も前から**「重度の便秘」**に悩まされています。便秘は単なる不調ではなく、早期発見の重要なサインと言えます。

4. 診断と検査:画像だけでは決まらない

診断は、問診(症状の聞き取り)、認知機能検査、画像検査を組み合わせて総合的に行われます。

主な検査方法

  • 認知機能検査: 長谷川式(HDS-R)やMMSEなど。ただし、レビー小体型は記憶力が保たれている場合もあり、これらの検査だけで見逃されることもあります。
  • 画像検査(MRI/CT): 脳の萎縮を確認します。
  • 脳血流シンチグラフィ(SPECT): 後頭葉の血流低下を確認します(特徴的所見)。
  • MIBG心筋シンチグラフィ: 心臓の交感神経の働きを見ます。レビー小体型認知症では集積が低下するため、アルツハイマー型との識別に非常に有効です。

診断の難しさ

「画像検査なら100%分かる」と思われがちですが、初期段階では画像に変化が出にくいこともあります。

そのため、「幻視があるか」「日によって調子が違うか」といった家族からの情報が、診断の決定打になることが多々あります。

【保存版】医師に正しく伝えるための「症状観察メモ」テンプレート

レビー小体型認知症の診断や薬の調整には、「家での様子の変化」が最も重要な情報源になります。

医師の前では「シャキッとしてしまう(良い時の状態になる)」患者さんも多いため、普段の様子をメモして渡せるように準備しておきましょう。

以下の項目をコピーして、スマホのメモ帳や紙に記録して持参することをお勧めします。

受診用 症状観察シート

  1. 認知機能の変動(日内変動)
    調子が良い時間帯: (例:午前中は会話が成立する)
    調子が悪い時間帯: (例:夕方になるとボーッとして反応がない)
    どのような変化か: (例:視線が合わない、一点を見つめる、呼びかけに答えない)
  2. 幻視(見えないものが見える)
    頻度: (例:週に2~3回、毎日夕方など)
    何が見えているか: (例:知らない子供、黒い虫、小動物など)
    本人の様子: (例:怖がっている、楽しそうに話している、払いのける動作をする)
  3. 身体の動き(パーキンソン症状)
    [  ] 手が震える(安静時・動作時)
    [  ] 動作が以前より遅くなった
    [  ] 表情が硬い、乏しい
    [  ] 歩幅が狭い、小刻みに歩く
    [  ] 転びやすい、前傾姿勢になる
  4. 睡眠中の様子(レム睡眠行動異常症)
    [  ] 大きな声で寝言を言う(叫び声など)
    [  ] 手足をバタバタ動かす、暴れる
    [  ] 夢の内容を覚えているか: (追われる夢、戦う夢など)
  5. その他の気になる症状
    [  ] 便秘がひどい
    [  ] 立ちくらみ・ふらつき
    [  ] 薬を飲んだ後に急に具合が悪くなったことがある(薬剤過敏性)
    [  ] 嗅覚が鈍くなった(料理の匂いが分からないなど)

5. 治療と薬:薬剤過敏性に要注意

治療のポイント

現在の医療では完治させることはできませんが、薬物療法で症状を緩和し、進行を穏やかにすることは可能です。

使用される主な薬剤

  1. 抗認知症薬: アリセプト(ドネペジル)などが使われます。アルツハイマー用ですが、レビー小体型特有の「幻視」や「ぼんやり感」に効果が高いとされています。
  2. パーキンソン治療薬: レボドパなどで身体の動きを改善します。

【重要】薬剤過敏性について

レビー小体型認知症の方は、薬に対して非常にデリケートです。 特に、幻覚や興奮を抑えるための「抗精神病薬」を使用すると、副作用で体が固まって動けなくなったり、意識障害を起こしたりするリスクがあります。 医師には必ず**「レビー小体型の疑いがあるため、薬の副作用が心配です」**と伝え、少量から慎重に開始してもらうことが重要です。

6. 家族ができる対応・ケアのポイント

幻視への対応:「否定しない」が鉄則

「また変なことを言って」と否定したり、「しっかりして」と叱咤したりするのは逆効果です。

  • 受け入れる: 「虫が見えるんだね、怖いね」と共感する。
  • 安心させる: 「私が追い払うから大丈夫だよ」と、見えている世界に合わせて対応する。
  • 環境調整: 部屋を明るくする、壁のシミやハンガーにかかった服(人に見えやすいもの)を片付けることで、幻視が減ることがあります。

【実践】レビー小体型認知症のための住環境チェックリスト

幻視や転倒のリスクを減らすために、ご自宅の環境を見直してみましょう。

特に「影」や「複雑な模様」は幻視の引き金になりやすいため注意が必要です。

  • 照明の明るさと影
    [  ] 部屋の隅に暗い影ができていないか(間接照明などで明るくする)
    [  ] 夜間のトイレまでの動線に足元灯(人感センサー推奨)があるか
    [  ] 逆光で家族の顔が暗く見えていないか(昼間でもカーテンで調整)
  • 視覚的な刺激(幻視対策)
    [  ] 壁のシミやポスターが「人の顔」に見えそうな場所にないか
    [  ] ハンガーにかかった洋服が「人」に見えないよう、クローゼットにしまう
    [  ] カーテンや絨毯は、複雑な柄物よりも無地のものを選んでいるか
    [  ] 大きな鏡に自分の姿が映り込み、驚いていないか(夜間はカバーを掛ける)
  • 転倒防止(パーキンソン症状対策)
    [  ] 床に電気コードや新聞紙などが散乱していないか
    [  ] ラグやマットの縁がめくれ上がっていないか(つまずき防止のため撤去も検討)
    [  ] 椅子やベッドの高さは、立ち上がりやすい高さか
    [  ] トイレや浴室に、掴まりやすい手すりがあるか

変動への対応:良い時を基準にしない

調子が良い時に「これだけできるなら大丈夫」と思わず、「今日はたまたま調子が良いだけ」と捉えましょう。

悪い時は無理をさせず、休息を優先してください。

まとめ:正しく知れば、怖がりすぎる必要はない

レビー小体型認知症は、幻視やパーキンソン症状など、見た目にも分かりやすい症状が出るため、家族の負担や不安が大きくなりがちです。

しかし、適切な診断を受け、少量のお薬で調整することで、劇的に症状が落ち着くケースも私は現場で多く見てきました。

「認知症だから」と諦めず、特徴を理解して専門医やケアマネジャーと連携することが、ご本人とご家族の穏やかな生活につながります。


【レビー小体型認知症 Q&A】

Q1. 平均余命(寿命)はどれくらいですか?

A. 個人差が大きいですが、発症から平均して7~10年程度と言われています。アルツハイマー型に比べると進行がやや早い傾向にありますが、適切なケアと誤嚥性肺炎などの合併症予防により、穏やかに過ごせる期間を長くすることは十分に可能です。

Q2. 若くても発症しますか?

A. 一般的には65歳以上の高齢者に多いですが、65歳未満で発症する「若年性レビー小体型認知症」も存在します。働き盛りでうつ病と誤診されるケースもあるため、注意が必要です。

Q3. 何科を受診すればいいですか?

A. 「もの忘れ外来」「精神科」「神経内科」「脳神経外科」などが専門です。特にレビー小体型は身体症状も伴うため、神経内科医や、認知症専門医のいる医療機関が推奨されます。


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