こんにちは、リコケアコナーズ 菅原です。

寒さが厳しくなると、介護現場では「利用者の体調管理」に一層の神経を使いますよね。
特にこれからの季節、私たちが最も警戒しなければならないのが「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。

「食事の形態は変えていないのに、なぜか冬になるとムセが増える……」

そんな経験はありませんか?

実は、冬に誤嚥性肺炎が急増する最大の原因は、「空気の乾燥」と「隠れ脱水」にあります。
ウイルスだけでなく、乾燥そのものが高齢者の身体機能を低下させてしまうのです。

今回は、長年の介護現場で培った知識を踏まえ、認知症リハビリテーション専門士としての視点も交えながら、冬の乾燥から利用者を守り、誤嚥性肺炎を防ぐための具体的なケア方法について解説します。


1. なぜ冬に誤嚥性肺炎が急増するのか?【乾燥のメカニズム】

冬場の誤嚥性肺炎は、単なる「飲み込みの失敗」だけが原因ではありません。

環境と身体の変化が複雑に絡み合っています。まずは敵を知ることから始めましょう。

1-1. 空気の乾燥が奪う「線毛運動」のバリア機能

私たちの喉や気管の表面には、「線毛(せんもう)」という細かい毛が生えています。

これは、体内に入ってきた細菌やウイルスを、ベルトコンベアのように外へ(口側へ)運び出す「ほうき」のような役割を果たしています。

しかし、空気が乾燥すると、この線毛の動きが鈍くなってしまいます。
動きの悪くなったほうきでは、ゴミを掃き出せませんよね。

その結果、本来なら排出されるはずの細菌が気道に留まり、肺へと侵入しやすくなってしまうのです。これが、冬に肺炎リスクが高まる一つ目の理由です。

1-2. 高齢者が気づかない冬の「隠れ脱水」と唾液減少

「夏じゃないから脱水は大丈夫」と油断していませんか?

冬は暖房の使用で湿度が下がり、皮膚や呼気から水分が失われる「不感蒸泄(ふかんじょうせつ)」が増えます。

さらに高齢者は、寒さで喉の渇きを感じにくいため、知らず知らずのうちに「隠れ脱水」の状態に陥りやすいのです。

水分が不足すると、唾液の分泌量が減ります。
唾液には口の中の汚れを洗い流す「自浄作用」がありますが、これが低下することで口内細菌が爆発的に繁殖。

その汚れた唾液を誤嚥することで、重篤な肺炎を引き起こしてしまいます。

1-3. 気温低下による「嚥下反射」の遅れ

「寒さ」そのものも、飲み込む力(嚥下機能)に悪影響を及ぼします。

私たちの体は、冷えると筋肉がこわばり、神経の伝達速度も遅くなる性質があります。

特に首回りが冷えていると、喉の感覚が鈍くなり、「ゴックン」とする嚥下反射(えんげはんしゃ)のタイミングがわずかにズレることがあるのです。

この「ほんの一瞬の遅れ」が、高齢者にとっては命取りになりかねません。


2. 介護現場で徹底したい「環境」の乾燥対策

ここからは、施設や在宅ですぐに実践できる具体的な対策をお伝えします。
ポイントは「数値」で管理することです。

2-1. 室温と湿度の黄金比

室温:20~22℃
湿度:50~60℃
湿度計はベッドサイドの高さに

ウイルス対策と粘膜保護の両面から、冬場の理想的な環境は「室温20〜22℃、湿度50〜60%」と言われています。

ここで一つ、現場でよくある落とし穴があります。

湿度計を壁の高い位置に掛けていませんか?
暖気は上に溜まり、湿度は場所によってムラができます。

必ず「利用者の顔の高さ(ベッドサイド)」に湿度計を設置してチェックしてください。
壁掛けの計器が50%を示していても、ベッド上はカラカラに乾燥しているケースが意外と多いのです。

2-2. 加湿器の正しい運用と「レジオネラ菌」対策

湿度を上げるために加湿器は必須アイテムですが、管理を怠ると逆効果になることをご存知でしょうか。
タンクの水を継ぎ足して使い続けると、「レジオネラ菌」などの雑菌が繁殖し、加湿器が「菌を部屋中に撒き散らす装置」になりかねません。

これを防ぐための鉄則は以下の通りです。

  • 水は毎日必ず捨てて、新しい水道水(塩素が含まれているため)を入れる。
  • タンク内は毎日ブラシで洗う。
  • フィルターは定期的に清掃・交換する。

スタッフ間での「加湿器清掃当番」の徹底が、利用者の肺を守ることにつながります。

2-3. 加湿器がない場合の裏ワザ(濡れタオル・霧吹き)

在宅訪問時など、加湿器がない環境に遭遇することもあるでしょう。
その場合は、濡らしたバスタオルを部屋に干すだけでも効果があります。

また、清潔な水を入れた霧吹きで、カーテン(カビない程度に)や空中に水を吹きかけるのも即効性があります。
特に就寝前、枕元に濡れタオルをハンガーで掛けておくだけでも、口元の湿度は大きく変わりますので、ぜひご家族にも提案してみてください。


3. 口腔内の乾燥を防ぐ「プロの口腔ケア」

誤嚥性肺炎予防の要(かなめ)は口腔ケアですが、冬場は「汚れを落とす」だけでなく「潤す」ケアが重要になります。

3-1. 歯磨きだけでは不十分!「保湿剤」の活用法

乾燥してカラカラになった口の中を、いきなりスポンジブラシなどで擦っていませんか?

粘膜が張り付いた状態で無理にケアをすると、口の中を傷つけ、そこから感染症を引き起こすリスクがあります。

冬の口腔ケアは、まず「保湿」からスタートするのがプロの技です。

  1. 口腔ケア用の保湿ジェルを塗布し、汚れをふやかす。
    ※スプレーもありますが、微量ながら誤嚥する可能性もあるので、ジェルを推奨します。
  2. 数分待ち、汚れが浮いてから優しく除去する。
  3. ケアの最後に、再度保湿剤を塗って仕上げる。

このひと手間を加えるだけで、粘膜を守りながら安全にケアができます。

3-2. 食事前の「お口の準備体操」で唾液を出す

食事の前に、唾液をしっかり出しておくことも大切です。

耳の下(耳下腺)や顎の下(顎下腺)を優しくマッサージしたり、「パ・タ・カ・ラ」と発声する体操を行ったりして、唾液腺を刺激しましょう。

口の中が潤った状態で食事を始めることは、食塊(食べ物のまとまり)をスムーズに送り込む助けとなり、誤嚥のリスクを大幅に下げてくれます。

3-3. 夜間の口呼吸対策と口腔内乾燥

「朝起きると、口の中がバリバリに乾いている」という利用者様はいませんか?

高齢者は筋力の低下により、就寝中に口が開いてしまう「口呼吸」になりがちです。

これを防ぐために、苦しくない範囲で不織布マスクを着用して寝ていただいたり、口元を覆うような保湿サポーターを活用したりするのも有効です。
夜間の乾燥を防ぐことは、翌朝一番の誤嚥リスクを減らすことにも繋がります。


4. 食事介助における冬特有の注意点

最後に、食事介助の場面で気をつけたいポイントをお話しします。

冬ならではの視点を持ちましょう。

4-1. 食事中の「水分摂取」のタイミングとトロミ調整

食事中は、固形物とお茶や汁物を交互に口にする「交互嚥下(こうごえんげ)」を意識しましょう。
口の中に食べ物が残るのを防ぎ、適度な湿り気を与えることで飲み込みやすくなります。

また、意外と見落としがちなのが「トロミ剤」です。

実はトロミ剤の種類によっては、飲み物の温度が下がるとトロミが強くなりすぎたり、逆にダマができやすかったりするものがあります。
室温が低い冬場は、配膳してから口に入るまでに温度変化が起きやすいため、介助の直前にトロミの状態を再確認する習慣をつけると安心です。

ちなみに、オレンジジュースや牛乳などは、トロミ剤を入れてからトロミがつくまでに時間がかかるため、「もっと入れた方がいいかな?」と、ついつい多めに入れてしまいがちです。
すると、時間を置いてねっとりしてしまい、窒息のリスクまで誘発するので、トロミ剤の量は適量を心がけましょう。

4-2. 覚醒レベルを上げ、身体を温めてから食事へ

寒いと活動量が減り、うとうとした状態(覚醒レベルが低い状態)で食事を迎えてしまうことがあります。

このまま食事介助を始めると、タイミングが合わずに誤嚥しやすくなります。

食事前には、温かいおしぼりで顔や手を拭き、利用者に「これからご飯ですよ」という刺激を与えましょう。
体が温まり、交感神経が働くことで、シャキッとした状態で安全に食事を摂ることができます。


まとめ

冬の誤嚥性肺炎予防は、介護職の細やかな「気づき」と「環境作り」にかかっています。

  • 湿度管理: 湿度計は利用者の目線に置き、50%以上をキープする。
  • 口腔ケア いきなり磨かず、まずは「保湿」して粘膜を守る。
  • 水分補給: 隠れ脱水を防ぎ、唾液の原料となる水をこまめに摂る。

これらは決して難しい医療処置ではなく、毎日のケアの中で実践できることばかりです。

あなたのその丁寧なケアが、利用者の命を守り、元気に春を迎えるための大きな力になります。
ぜひ、今日から現場で取り入れてみてください。


よくあるご質問(Q&A)

読者の皆さんが疑問に思いやすい、少しニッチな質問にズバリお答えします。

Q1. 就寝時の「マスク着用」は、認知症の方でも安全ですか?

A1. 窒息や誤飲のリスクがないか、個別の判断が必要です。 ご自身でマスクを外せる方であれば保湿対策として有効ですが、認知症の進行度によっては、マスクを噛んでしまったり、紐が首に絡まったりする危険があります。その場合は、加湿器の配置を工夫するか、濡れタオルを枕元に置く方法へ切り替えましょう。

Q2. 加湿器の種類(スチーム式、超音波式など)でおすすめはありますか?

A2. 介護現場では「スチーム式」または「ハイブリッド式(加熱気化式)」が推奨されます。 水を加熱するタイプは煮沸消毒の効果があり、菌の繁殖リスクが比較的低いためです。超音波式は安価で静かですが、こまめな手入れをしないと雑菌を放出しやすいため、衛生管理の面では注意が必要です。

Q3. 誤嚥予防のために「辛いもの」や「酸っぱいもの」は避けるべきですか?

A3. 刺激が強すぎるものは避けるのが無難です。 適度な酸味やスパイスは唾液分泌を促したり、嚥下反射を良くしたりする効果(カプサイシンなど)がありますが、強すぎる刺激はムセを誘発します。冬場は粘膜が乾燥して敏感になっているため、マイルドな味付けを心がけましょう。


🎁 公式LINE登録でプレゼント

最後までお読みいただきありがとうございました。

介護の現場で頑張るあなたに、さらに役立つ情報をお届けします。

現在、当ブログの公式LINEにご登録いただいた方限定で、 「認知症改善の教科書(PDF)」を無料でプレゼントしています!

認知症改善の教科書

認知症リハビリテーション専門士としての経験を詰め込んだ、現場ですぐに使えるノウハウ集です。 誤嚥性肺炎予防だけでなく、認知症の方とのコミュニケーションやケアにお悩みの方は、ぜひ受け取ってください。

▼ 公式LINEの登録はこちらから ▼