はじめに:認知症と原因疾患の関係性
認知症とは、何らかの原因で脳の機能が低下し、記憶、思考、判断、言語、視空間認識、複雑な行動遂行などの能力に障害が生じ、日常生活に支障をきたす状態を指します。
この認知症は、「認知症」という名の1つの病気ではなく、様々な原因によって引き起こされる症候群です。
正確には、何らかの病気によって、一定以上の期間、認知機能が低下した状態を認知症と呼びます。
その、認知機能を低下させている原因になっている病気を、原因疾患と言います。
認知症には様々な原因疾患がある故に、一言に認知症と言っても、人によって違う症状が現れる場合があるのです。
認知症と原因疾患の関係性を理解することは、適切な診断と治療、そして効果的なリハビリテーションを行う上で非常に重要です。
認知症の原因疾患:主な種類と特徴
認知症の原因疾患は、70種類以上と多岐にわたりますが、大きく分けると神経変性疾患、脳血管性認知症、その他の疾患に分類されます。

神経変性疾患
アルツハイマー病
- 特徴:
脳内にアミロイドβやタウタンパク質が蓄積し、神経細胞が死滅していく進行性の神経疾患です。 - 症状:
初期症状は記憶障害から始まることが多く、徐々に言語障害、空間認識障害、性格の変化などが現れます。
※全てのアルツハイマー病患者に同じ症状が現れるわけではありません。 - 進行:
早さに個人差はありますが、徐々に進行し、最終的には日常生活を送ることが困難になります。
レビー小体病
- 特徴:
脳内にレビー小体と呼ばれるタンパク質の塊ができて、神経細胞が変性する疾患です。 - 症状:
記憶障害、幻視、パーキンソン病に似た症状(震え、こわばりなど)を併発することが特徴です。 - 進行:
個人差はありますが、アルツハイマー病と比べると進行が早いと言われています。
前頭側頭葉変性症
- 特徴:
脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が選択的に変性する疾患の総称です。 - 症状:
症状は多様ですが、性格の変化(衝動性、無関心など)、言語の困難、社会的行動ができなくなるなどがあります。 - 種類:
緩やかに進行すると言われています。
脳血管性認知症
- 特徴:
脳の血管が詰まったり破れたりすること(脳梗塞や脳出血など)で、脳の組織が損傷し、認知機能が低下する疾患です。 - 症状:
記憶障害に加え、歩行障害、尿失禁、性格の変化などがありますが、損傷した脳部位によって現れる症状と現れない症状がはっきり違っており、まだら認知症とも呼ばれています。 - 進行:
脳梗塞などが起こる度など、段階的に進行すると言われていますが、脳の損傷の程度や部位によって、症状の出現や進行のスピードが異なります。
その他の認知症
- 正常圧水頭症:
脳室内の髄液が増えて脳が圧迫されることで起こる認知症です。 - ビタミン欠乏症:
ビタミンB12欠乏症などが原因となることがあります。 - 脳腫瘍:
脳に腫瘍ができることで、認知機能が低下することがあります。 - 感染症:
梅毒やHIV感染症など、一部の感染症が認知症の原因となることがあります。
※多数ある認知症の原因疾患の一例です。
「まさか認知症?」に気付くためのヒント
ご家族の変化に、あなたは気づいていますか?
「年のせいかな?」程度に思えても、そんな些細な変化が、もしかしたら認知症のサインかもしれません。
認知症は早期発見・早期対応が大切です。
家族が日頃から注意深く見守ることで、小さな変化にも気付き、早期に医療機関を受診することができます。
以下に、認知症の早期発見のヒントとなる、具体的な変化をいくつか挙げます。

日常生活での変化
①物忘れがひどくなった:
- 鍵、通帳など貴重品をどこに置いたか思い出せない
- 同じことを何度も繰り返い言う・質問する
- 予定や約束を忘れる
②言葉が出にくい:
- 会話中、どもりやすくなった
- 言いたい言葉がなかなか出てこない
- 言葉の意味がわかっていないことがある
③判断力が低下した:
- 小銭での支払いができない、ATM操作ができないなど、金銭管理が難しくなった
- 料理が得意だったのに、塩加減が違うなど、うまくできなくなった
- 季節に合った服を選ばなくなった、脱いだ服を新しい服と間違えてまた着る
④性格が変わった:
- 人当たりのいい性格だったの、周りの人を疑うようになった
- 以前より些細なことで怒りっぽくなった
- 趣味に無関心になった
⑤空間認識能力の低下:
- 道に迷うことが増えた
- いつも通る道がわからなくなった
⑥日常生活動作の変化:
- 着替えが遅くなった
- ボタンを掛け違えるようになった
- 食べこぼしが増えた
心理的な変化
- 不安感が強くなった:
- いつも落ち着かない
- 何かに怯えている
- 抑うつ状態:
- 表情の変化が乏しくなる
- 何をするにもやる気が出ない
- 幻覚・妄想:
- 足元にゴミが絡まっているなど、ないものが見えている
- 誰もいないのに、「部屋に子供がいる」など言う
- 「嫁が自分の悪口を言っている」「妻が浮気している」など根拠なく言う
行動の変化
- 同じ行動を繰り返す:
- 同じ言葉・質問を何度も繰り返す
- 同じ場所を何度も行ったり来たりする
- 収集癖: 不要なものを集めたり、ゴミ箱を漁ったりする
- 不潔をいとわない:
- お風呂好きだったのに、入ろうとしなくなり、勧めても拒否する
- 突然化粧をしなくなった
- ひげを伸ばしっぱなしにするようになった
これらの症状は、必ずしも認知症を示すものではありません。しかし、これらの変化に気づいたら、一度専門医に相談することをおすすめします。早期発見・早期対応が、ご本人とご家族の未来を明るくします。
これらの変化は、必ずしも認知症の前兆とは限りません。加齢による変化や、他の病気による症状と似ている場合もあります。しかし、これらの変化に気づいたら、早めに医療機関を受診し、専門医に相談することが大切です。
早期発見のメリット
認知症は、早期に適切な治療を行うことで、症状の改善が見込める可能性が高まります。
認知症の早期発見は、患者さんご本人だけでなく、ご家族にとっても非常に重要です。
「この年でまだ認知症にならないだろう」、「父のようなしっかりした人が、認知症になるはずない」と思っていると、いざという時に対応が遅れてしまうかもしれません。
ここに挙げた具体例を見て、「まさか、うちの親も認知症…?」と思ったら、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
認知症の原因疾患の診断
- 問診:
患者さんご本人や家族の方に、いつ頃から症状に気づいたか、どのような症状があるかなど、詳しくお話を伺います。 - 神経学的検査:
記憶力、計算力、判断力、言語能力などを評価する検査を行います。 - 身体診察:
血圧、脈拍、反射などの身体的な状態を調べます。 - 脳画像検査:
脳の構造や機能を画像で確認します。 - CT(コンピュータ断層撮影):
脳の構造的な異常(出血、腫瘍など)を調べるのに有効です。 - MRI(磁気共鳴画像法):
脳の構造だけでなく、機能的な異常も詳細に調べることができます。 - 血液検査:
貧血、甲状腺機能異常、感染症など、他の疾患が原因で認知症のような症状が出ていないかを確認します。 - 脳脊髄液検査:
脳の周りの髄液を採取し、特定の物質を調べることで、アルツハイマー病などの診断に役立つことがあります。
正確な確定診断を下すためには、以下のポイントが重要です。
- 複数の医師による評価:
脳神経内科医、神経心理学者など、複数の専門医が協力して診断を行います。 - 時間をかけて診断:
認知症の診断は、一度の検査で確定するものではありません。
複数の検査を繰り返し行い、時間をかけて診断を確定していきます。 - 鑑別診断:
認知症以外の疾患(うつ病、薬の副作用など)との違いを明らかにする必要があります。
診断結果に基づいて、医師は患者さんやご家族に、病状の説明、治療法、今後の生活について詳しく説明します。
ケアマネジャーがついている場合は、そちらに診断結果を報告し、相談するのも良いでしょう。
認知症の原因疾患とリハビリテーション
認知症リハビリテーションの目的
ここまでお伝えしたように、認知症の原因は様々で、複数の疾患が挙げられます。
認知症リハビリテーションの目的は、一般的には、認知機能の低下を遅らせ、残存機能を最大限に引き出し、QOL(生活の質)の向上を図ることとされています。
具体的には、
- 認知機能訓練: 記憶力、計算力、判断力などの訓練
- 日常生活動作訓練: 食事、着替え、入浴などの動作の訓練
- コミュニケーション訓練: 話し方や聞き方の訓練
- 社会参加支援: 集団活動への参加やボランティア活動の支援
などが行われます。
しかし、医療機関やデイサービスなど、実際にリハビリテーションを行う現場では、期待したような効果が得られていないところが多いのが現状です。
その理由は、”適切な過程を経てリハビリテーションを行っていないから”です。
本来あるべきリハビリテーションの過程とは
通常、例えば脳梗塞からの麻痺による歩行困難に対してのリハビリテーションでは、医師の診断・指示の下、患者さんの状態に合ったリハビリテーションのプログラムを組みます。
そのプログラムに沿ってトレーニングを実施し、その経過を記録、測定します。
測定の結果、効果が現れていれば、同じ内容を継続したり、強度を上げるなどして、さらなる向上を目指します。
効果がない、または悪化している場合、行ったトレーニングは適切だったかなどを再評価し、新たなプログラムを組み直します。
まとめると、
- 評価:
持病や体調などを考慮しながら、改善すべき点を洗い出し、それに沿ったトレーニングプログラムを考案します。 - トレーニング:
プログラムに沿ったトレーニングを実施します。 - 測定:
トレーニングの結果を数値化するなどして測定し、更なる改善点を洗い出し、評価に戻ります。
これが適切な、かつ、どこでも行われているリハビリテーションの過程です。
認知症リハビリテーションも、例外なくこうあるべきです。
にも関わらず、実際に行われている認知症リハビリテーションは、「2.トレーニング」のみである場合が多いという現状があります。
これは、意地の悪い言い方をすれば、「認知症だから塗り絵でもやってもらおう」という、根拠のないトレーニングを行っていることと同義なのです。
例えば、認知症の原因のひとつに”脱水”がありますが、その場合、水分を十分に摂れば解決します。
ですが、それに気付かず塗り絵などやらせていても、効果はまずないと言っていいでしょう。
むしろ、そうしている間に脱水症状が進み、認知症どころか生命の危険にもなりかねません。
最初の「1.評価」が適切に行えていれば、そのような危険を事前に回避できる可能性が高まるのです。

まとめ
認知症は、その原因となる疾患によって症状や進行度が異なります。
アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症など、様々な疾患が認知症を引き起こし、それぞれに合った治療法やリハビリテーションが必要となります。
リハビリテーションは、日常生活の自立度を高める上で非常に重要です。
しかし、どの様なリハビリテーションが最適かは、患者さんの状態や疾患の種類によって異なります。
【コナーズ】では、患者さん一人ひとりに合わせた、自宅でできる個別リハビリテーションを提供しております。
もし、ご自身やご家族のことでお困りのことがございましたら、お気軽に無料相談をご利用ください。
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【参考資料】
- 厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/
- 国立長寿医療研究センター:https://www.ncgg.go.jp/
- Alzheimer’s Association:https://www.alz.org/